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偉大なるかな昭和 黒電話だけで仕事をしていた時代

「スマホを使いこなせるようになって、仕事の仕方がちょっと変わってきたかな」

   こう話すのは、都内で企画会社を経営する40代の社長A氏。最近になりガラケーとの2台持ちを止め、スマートフォン1択にしています。

「だってスマホ1台あれば何でもできちゃうじゃない。GPSとマップデータとで行き先に迷うこともなくなったし、通話しながらマルチタスクで調べものできるし。結果、以前なら事前の準備で取られていた時間が、ギリギリまでほかのことに使えるようになって、時間の使い方が濃密になった気がするんだよね」

連絡漏れが怖いA氏「メール送ったら電話しろ」

   会話がループするような、退屈な会議や打ち合せ中に株価をチェックして株を売買したり、ニュースを見て部下にメッセンジャーで別の仕事の取材指示を飛ばすなんてことを、「いかにも調べものや資料を閲覧しているかのように装って、ササッとやる」ことすらあるそうです。

「スマホ以前、ガラケーの時代までは、いかにも飲み屋からの営業メールでも見てんのか、みたいな感じで印象も悪かったけど、なぜかスマホだと仕事してます感があるんだよね(笑)」

   その一方で、若い部下に対する不安な点も出てきているとか。

「20代の若いヤツなんて最初からそうなんだけど、下調べや準備、連絡が凄く甘い。取材や訪問先も直前になってからスマホで調べればいいみたいなところがあって、神田●●町のような似た地名で道や最寄り駅を間違えて、結果的に時間をロスしてしまうとか、そんなのが多くなったよね」

   アポイントなどの時間変更や追加の依頼が伝わっていなかった、というケースも目に見えて増えているとA氏。原因は100%、メールを投げるだけで電話や口頭で伝えていないことにあるのだとか。

「そのたびに、みんながみんな常にメールを見ているわけじゃない、着信通知アプリを入れていない人もいるから、必ず口でも伝えろって説教するんだけど。ところが、いくら言っても直らないヤツがいるんだ、これが。もう身に染み付いちゃってるのね、メール投げときゃ終了って。創造する仕事なんだから、想像力を働かせろよって言うんだけど、習慣化しちゃったものは本人がよっぽど意識しないと、なかなか直らないよね」

   便利さにかまえて、硬直した仕事の仕方しかできない人が出てきている。一昔前によくあったマニュアル社員批判を彷彿とさせるものがあります。

   想像力を働かせろというのは、街中で音楽を聴きながら、かつ画面を操作しながら周囲を気にせず歩き、人や車の通行の邪魔になっているすべてのスマートフォンユーザーにそのまま当てはまることです。人間のアテンションを独占的に奪ってしまうことそれ自体が、スマートフォンが内包する根本的な問題なのかもしれません。

スマホしながらメモできないB氏「最初からメールで送れ」

   想像力とメールによる連絡ということでは、別の調査会社の社長B氏(50代)もこんなことを言ってました。

「スマートフォン宛に電話してきて、日時とか場所とか細かいことを言われても困るんだよね。スマホってケータイ以上に肩とアゴで挟みにくいから、絶対に通話しながらメモなんてできない。最初からメールで送ってこいよ、って。みんながみんなハンズフリーで話してるって思うなよ、ってね。それに口頭だと伝達ミスも起こるじゃない。想像力を働かせろよ、と」

   B氏は、歩きながら大きな声で一人だけ話しているハンズフリーの姿がどうしても品が悪く思えるそうで、よほど追いつめられるまではハンズフリーで通話する気はないそうです。

   メールでも記載ミスがあり得るので、一概に口頭伝達が悪いとは思わないのですが、そうなると別の疑問も出てきます。

   どの端末にも即時の着信通知があるわけではないという前提で、「メールを送ったので、すぐに見ておいてください」と、メールを送った後で電話するのは二度手間であり、結局は時間をムダに使っていないか、と。

   誰もがハンズフリーじゃないとか、誰もがメモをするのに便利な状況にいるわけじゃないとか、誰もが常にメールを見ているわけじゃないとか、もういろいろ考えるとどうしたら一番良いのかワケが分からなくなってしまいます。

   相手がどういう状況にいるのか、端末の仕様はどんなのか、スマートフォン本体や付近の監視カメラからデータを常に送ってもらうなんて、それこそSF映画みたいなことが必要になっていくんでしょうか?

「だから、伝言でも良いんだから、メールを送った後でひと言、メール見ておいてくださいって電話しときゃいいんだよ」(A氏)
「だから、電話で直接伝えて、念のためメールでも送っておきますって、そうすれば良いんだよ」(B氏)

   うーん、黒電話一本で滞りなく業務が進行していた昭和ってのは、偉大な時代だったのかもしれない…。(井上トシユキ)