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「シャア専用ザク」の赤は、なぜ3倍強そうなのか アニメ彩色の知覚心理学

「ハイジのパンって、おいしそうだよね」
「ギャートルズのマンモスの肉も食べてみたいんだよね!」

   先日テレビで「食べてみたいアニメの食べもの」を特集していましたが、あのパンと肉は本当においしそうですよね。お店で白いパンを見ると、無性にチーズをのせて食べたくなったり、マンモスの肉なんて完全に想像の産物なのに、外資系スーパーなどで巨大肉を見かけると「あ、マンモス!」と思ってしまいます。

   でも、アニメの食べ物は、彩色用の絵具(今はデジタルですが)で塗られた「一枚の絵」です。なのに、なぜそんなにおいしそうなのでしょうか?

おいしそうなプリンは「黄色」で塗らない?

アニメの現場には微妙な色合いを決めるための「彩色」というプロフェッショナルがいる
アニメの現場には微妙な色合いを決めるための「彩色」というプロフェッショナルがいる

   考えられる理由のひとつは、食べているキャラクターがおいしそうに食べているから。ハイジのパンも、ペーターがとろりとしたチーズをのせて食べている場面は、本当においしそうですよね。

   マンモスの肉も、ギャートルズのおとうさんがガブッとかぶりついているあの感じが、たまらないわけです。『忍たま乱太郎』のしんべヱがおいしそうに食べていると、シンプルなおにぎりひとつでもついコンビニに走ってしまいます。

   また、食事をする場所や状況が食欲をそそる場合もあります。温泉、海の家、キャンプなど、イベント系の食事は文句なくおいしそうです。

   しかし、もうひとつ見逃せないのが食事の「色」です。以前担当した作品では、プリンの色を「黄色」ではなくて「黄色に近いオレンジ」に塗りましたが、アニメのプリンは「オレンジ色」のほうが断然おいしそうなのです。

   アニメの食事シーンでは「白いごはん」も定番ですが、白いお米の影色ひとつで印象が変わります。影色を暖色系で塗るご飯が温かく感じますし、逆に、お寿司に寒色系を使うとキリッとした酢飯になります。

   このような色のマジックを操っているのは、「彩色」という部署です。作品全体の色彩のトーンを統一し、キャラクターやメカ、小物などの色指定をする仕事なのですが、色味のちょっとした違いが見分けられるプロフェッショナルなのです。

小豆色とタラコ色が醸しだす「重みのある赤」

   アニメの「赤」で有名なのは、『機動戦士ガンダム』に出てくるシャア専用「赤ザク」ですが、あの色も「ガンダムの赤」とは差をつけています。

   ガンダムの赤は「青」と「白」を目立たせるようなシャインレッドですが、シャア機の「赤」は鉄鋼の錆色にも似た重量感のある小豆色です。

   もう少し詳しく説明すると、赤ザクの頭部と腕、脚は「タラコ色」なのですが、小豆色に干渉されたピンクは「重みのある朱色」にみえます。この色は量産型ザクのミドリ色の補色でもあり、この組み合わせの妙が「ガンダムの世界観」を醸し出しています。

   ファーストガンダムで色指定をした人は、「オレがあの赤をつくったんだ!」と豪語していましたが、真偽はともかく、あの赤ザクの色指定は傑作だと思います。

「青いランチョンマットを使うと、食欲が減ってダイエットになる」

という説がありますが、色が人間の感情や心理に与える影響は意外と大きいものです。

   おいしそうな色、強そうな色、優しそうな色…。アニメの色も単純なようで複雑です。無限にあるアニメカラ―のなかから心にひびくアニメの色を設計するプロ、色彩設計の仕事は、アニメのリアリティをひそかに支えているのかも知れません。(数井浩子)