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飲み会の翌朝は、課長が必ず遅刻してきます

   管理職に昇格したと喜んでいたら、仕事の中身は変わらず、残業代だけが減ってしまった――。「7割は課長になれない」時代に狭き門を突破したと思ったら、実は「名ばかり管理職」だったという人も少なくないだろう。

   これに反発してか、ある会社では課長が飲み会の翌日に遅刻を繰り返している。会議の約束をすっぽかされた部下が課長にクレームを入れたところ、「管理職は労働時間に裁量がある」と反論されたと、人事に通報メールが届いたという。

「管理職は部署の成果で評価されるからいいんだ」

――コンサルティング会社の人事です。先日、コンサル部の若手から、A課長の仕事ぶりに関する通報をメールで受けました。仕事帰りに飲み会に行くと、翌日は必ず遅刻し、午後出社してくるのだそうです。

   普段は部下の面倒見もよく、仕事の指示も的確で評判ですが、なぜか酒がやめられず、飲んでいる最中に止めても全く耳を傾けません。

   酒癖が悪いわけではなく、淡々と飲んでいるので「今回は大丈夫かな」と思っていても、翌日には「やっぱ行けないわ」と電話が。もしかすると、解散後も一人で飲みに行っているのかもしれません。

「部長に相談しても、『這ってでも来いとは言えないだろ。急ぎの用があったら電話で指示をもらってくれ』と、真剣に取り合ってくれないんですよ」

   顧客へのプレゼンやあいさつ周りのときは、前の日からお酒を飲まないように気をつけているようですが、お客との新年会の翌日に社内会議を設定したときは、やっぱり欠席してしまいました。

   急な会議の欠席は問題だと本人に指摘したところ、こう反論されたといいます。

「悪いけど、仕事には優先順位をつけさせてもらっている。管理職はね、部署の成果で評価されているから、労働時間には裁量があるんだよ。だいたい残業代も支払われないのに、時給で働く一般社員と同じ働き方しかできないなら損じゃないか?」

   しかし他の管理職は、通常の始業時間に必ず出社し、残業代が出なくても必要に応じて出社しています。こういう勝手なやり方を許容していていいのでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
課長の主張にも一理あるが現実的には問題

   A課長の主張には一理あります。労働基準法41条により、管理職には「労働時間、休憩及び休日に関する規定」が適用されません。したがって、就業規則の残業や休日出勤、休憩の規定に関しても、管理職は対象外とすべきです(ただし深夜労働は管理職でも対象外とならない)。そうでないと、単に残業代なしに一般職より長時間働かされる「名ばかり管理職」になってしまうからです。本来はA課長が言うとおり、管理職は「いつ来て、いつ帰ってもいい」裁量を持っているのが原則であり、労働時間が短いことも許容されるのです。

   とはいえ、出勤時間があまりにも気まぐれだと、部下を監督したり、部下が上司に相談したりすることもできなくなります。正論はともかく、職場内の秩序を保つためにも就業時間は原則守るべきでしょうし、会議などの先約があればなおさらです。誰もが億劫になる飲み会の翌日に休みや遅刻をするようなら、部下に示しがつかないでしょう。

臨床心理士・尾崎健一の視点
「静かなアルコール依存症」でないかと心配

   突然の午前半休は問題ではありますが、就業規則改定があり、IT技術などを活用することで、課長の言い分に沿った形で「管理職がいつ来て、いつ帰ってもよい」職場を作ることは不可能ではないと思います。そのような先進的なマネジメントを追求する会社が、いずれ出てくるでしょう。ただし、指示・報告の管理ができるインフラを作るなど遠隔地で仕事を行う仕組みなしには、ただの「勝手な課長」になってしまいます。

   心配なのは、課長が「静かなアルコール依存症」ではないかということです。本人に自覚がなく、暴力など目立った問題がないため周りもそれと気づかないが、自分で飲酒をコントロールできない依存症が隠れて存在します。「やめようと思ってもどうしても飲んでしまう」とか「二日酔いで仕事を休んだり、大事な約束を守らなかったりしたことがときどきある」などが継続的にあれば、正式な診断を受けた方がいいと思います。病気であれば治療が必要ですし、会社として禁酒を勧告できます。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。