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アニメ制作「恐怖の報酬」―ポストプロダクションには危険がいっぱい

「あと5カット撮り直して!」「もう間に合いません!」

   アニメをつくる最終プロセスを「ポスプロ(Post-production)」といいます。ペイントが終わったセルと背景をあわせて撮影し、その映像に効果を加えたり、映像に合わせて音(音楽やナレーション、アフレコや効果音など)を入れたりします。こうした工程を経て、アニメは完成を迎えます。

   ポスプロは文字通り最後のパートなので、常に時間との闘いになります。特に撮影は、レンダリングといわれるデジタル処理に時間がかかるため、一分一秒を争うシビアな時間との闘いになります。

   締め切りギリギリのなかで、「もしかすると今回は放送が落ちるかも」という恐怖に襲われるストレスフルな現場――。それがポスプロなのです。

「あと3時間!」納品目指して走りつづける撮影スタッフ

よりよい作品にしたいというスタッフのこだわりが、現場を修羅場にするのであります
よりよい作品にしたいというスタッフのこだわりが、現場を修羅場にするのであります

   撮影には、締め切りギリギリまで注文が殺到します。最後まで上がりに納得できないスタッフからは「もっとフレア(光)強めで!」とか「指示したカメラワークどおりに撮りなおして!」と厳しいオーダーが飛びます。

   スケジュールを死守したい制作は「あと3時間でなんとかしてください!」と叫びます。無理難題の渦中で翻弄されながらも、撮影のデッドラインは刻々と迫ってきます。

   それはまるで、イヴ・モンタン主演の古典的サスペンス映画『恐怖の報酬』のよう。4人の男たちが高額の報酬のために、いつ爆発するかわからない危険物を目的地まで運ぶという話です。

   停まると爆発するというニトロを載せたトラック。狭い山道、大きな落石、重油の沼、次から次にあらわれるピンチを乗り切りながらゴールを目指す後半は、「タイムサスペンス」の王道です。

「この金は運転だけの報酬じゃない。俺は恐怖で報酬を得るのだ!」

   このセリフは、まさに締め切り直前の制作現場にピッタリ。いくつものピンチをくぐり抜け、納品時間に間に合わせるべく走りきらなければなりません。

「拡散タイプ」と「収束タイプ」は机が違う

   しかし、そんな修羅場も毎週のこととなれば、いちいち動じてもいられません。ポスプロのオペレーターはいつも冷静。締め切り当日でも、撮影ルームには意外とリラックスした雰囲気が漂っています。

   太極拳を習っていたときに、技を出すときに一瞬身体を緩めると攻撃力が増すと言われましたが、集中する直前に脱力することは仕事でも大事なのだと思います。

   さらに意外なことに、ポスプロの机はとてもキレイで、戦闘機のコクピットのように整然としています。以前、デザイナーやアニメーターの机の上は「素材や道具が散らばっていてカオス」と書いたことがありますが、その対極といっていいでしょう。

   ポスプロは「タイムサスペンス」の連続。あちこちに時限爆弾が仕掛けられている現場で、なんとか納品が間に合っているのは、冷静沈着な「爆弾処理班」がいるからこそ。とはいえ、たまには時限爆弾のない現場で仕事したいものです…。(数井浩子)