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アニメスタジオが不夜城なのは「神様を待っているから」

「アニメスタジオっていつも電気がついているよね」
「徹夜の連続で帰れないって本当?」

   アニメの仕事を始めたころ、同時に短大にも通っていました。朝は8時半から授業に出て、夕方に学校が終わると、そのままスタジオで徹夜。スカートやワンピース姿のまま寝袋で寝て、起きてそのまま大学に行ったりしていました。

   私の場合、スタジオが不便なところにあったため、夜11時を過ぎるとスタジオに泊まるしかなかったという理由でしたが、スタジオが都内にあったとしても「徹夜で仕事」はアニメ業界ではよくあることです。

徹夜に見えても実働8時間くらいのときがある

アニメスタジオには真夜中でも電気が煌々と点いているのであります
アニメスタジオには真夜中でも電気が煌々と点いているのであります

   締め切り前になると徹夜が続きますが、テレビ番組は毎週のように締め切りがあるため、「アニメスタジオは不夜城だ」とよく言われます。

   徹夜というといかにも大変そうですが、実は多くのスタッフが仕事を始めるのは午後イチだったりします。さすがのアニメ業界でも、不眠不休のスーパー人間はいないようです。

   一日は24時間なので、6時間を睡眠にあてるとしたら、残りは18時間。食事にお風呂、雑用などの時間を引くとせいぜい15時間くらいしか残りません。アニメ制作者は、締め切りのたびに妄想します。

「1日が30時間くらいあればいいのに」
「自分が3人くらいいたらいいのになあ」

   15時間の中で、どうやって「いいモノ」をつくりだすか。ここがアニメの仕事で最も頭を使うところかも知れません。多くのクリエイターは、集中力を高めることに苦心することになります。

   クリエイティブな仕事は、どんなときでも即座に「いいモノ」が降りてくるというわけでありません。不夜城のなかで「アニメの神様」が降りてくるのを待っているうちに、朝になっていたということもよくあります。

   冷静に考えると、神様を待っている時間を引くと、実際に仕事をしている時間は8時間くらいという場合もなきにしもあらず。プロダクションI.G社長の石川光久さんは、「もしアニメーターが9時~5時のサラリーマン時間で働いたら、今よりもっと効率的に働けるよね」とよく言っていました。

ダラダラ時間を避ける「上手な集中力の高め方」

   しかし実際には、アニメの仕事はそう簡単なものではありません。だいたい「いいモノ」がいつ降ってくるのか分からないからダラダラ過ごしてしまうわけで、このへんがクリエイティブの悩ましいところでもあり、面白さでもあります。

   とはいえ、連日徹夜スタイルで長年にわたって生産的に仕事をしているスタッフはみたことがないので、経験を積むなかで「上手な集中力の高め方」を編み出しているようです。

   時間のつかい方は人それぞれですが、毎日同じサイクルで仕事を続けるうちに、なんとなく「アニメの神様」が来るタイミングや確率がわかってきます。アニメスタジオが不夜城なのは、深夜族の神様が多いからかも…。

   私の場合は、早朝の時間帯がいいようです。午前4時起きのヨジラーですね。『東京ゴッドファーザーズ』で100カット近く原画を担当したときには、総武線始発でスタジオに行き、午前5時にスタジオ着。原画部屋の掃除をしてコーヒーを淹れてから仕事をしていました。

   集中力を高める時間帯と場所を自分なりにどう整えるかは、クリエイティブな仕事を長く続けるうえではとても重要な課題。今夜も多くのスタッフが不夜城で「アニメの神様」を待っているのです。(数井浩子)