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「女性が本当に食べたいと思う商品にしたい」――エースコック・スープはるさめ「なでしこプロジェクト」の挑戦

   女性がメインターゲットなのに、商品開発や販売に携わるスタッフは男性ばかり――。そんな会社はないだろうか。何年かに一度、思いついたように若い女性を集めても、検討結果が男性上司やスタッフに認められることは少ない。

「こんなもの、ウチじゃ作れないね。現場をもっと知ってもらわないと!」
「こんなんじゃ売れないだろ? そもそもウチのお客っていうのはさ…」

   そんなダメ出しで、せっかくの妙案がボツになったという例をよく聞く。そんな中、女性の粘り強い取組みが花開いた例があるという。発売12年目を迎えたエースコック「スープはるさめ」のリニューアルに携わった女性たち。名前は「なでしこプロジェクト」だ。

「男性が多い組織」では出なかった問題点を指摘

「女性ならではの商品開発の視点を活かしたかった」という商品開発グループ主任の金谷美香さん(入社8年目)
「女性ならではの商品開発の視点を活かしたかった」という商品開発グループ主任の金谷美香さん(入社8年目)

   エースコックといえば、「スーパーカップ1.5倍」「JANJAN」など即席めんが主力の大阪・吹田市の会社。主要顧客は20代から50代の男性で、当然ながら分かりやすくハッキリした濃い味を求める人が多い。商品開発も男性が中心だ。

   「スープはるさめ」は2001年、新しい市場を開拓する商品として開発された。カロリー控えめ のはるさめとの組み合わせでヘルシーというイメージを打ち出し、コンビニを中心に「カップめんはちょっと…」という女性にも受け入れられた。

   しかし、発売から10年以上が経過し、売上が伸び悩む。そこであらためて、元々の「女性に愛される商品」というコンセプトに立ち返り、2011年にリニューアルが検討された。

   商品開発グループの増岡仁良マネージャー(当時)が「若い視点を活かせるメンバー」という基準で招集したのは、20代から30代前半の若い女性たち。開発研究、商品開発、広告宣伝の部門から、計6人が選ばれた。

「男性が多い組織の中で、女性ならではの商品開発の視点が活かせないことが正直あった」

   そう告白するのは、商品開発グループ主任の金谷美香さん(入社8年目)。これまでも女性向け商品の提案をしてきたが、社内の意思決定をなかなか通らずにいた。男性向けラーメン一筋のベテラン社員から見れば、若い女性の発想は「消費者に理解されにくい」と思われたのかもしれない。

「ラーメンスープをベースにしていたので、ウチの商品は食べた瞬間に味がハッキリ分かる『先味』が立つように作られていたのでは」
「おいしいけど、後味が全部同じに感じる」「これでは女性は飲み干せない」

   集まった「なでしこプロジェクト」のメンバーからは、購入者の視点から従来商品の問題点を鋭く指摘する意見も出された。プロジェクトに男性上司が入っていたら、なかなか言い出しにくかったことだろう。

入社17年目の男性社員が「会社とのつなぎ役」果たす

「女性が本当に食べたいと思う商品にしたい」
「スープ屋さんとして作るスープはるさめにしたい」

   そんなメンバーの思いは、最終的に「ごちそう風味」という商品キーワードに集約された。しかし、これを商品で具体的にどう表現すべきか。

   入社以来スープづくり一筋の本社開発研究室主任、小隈友香さん(入社8年目)は「素材の風味を感じるもの、手作り感」を実現しようと、これまでに研究成果を集大成したスープにまとめた。

   パッケージデザインの見直しに関して、商品開発グループの濱西由布子さん(入社5年目)は、「木のテーブルの温かい質感」と「できたて感を強調した商品写真」を組み合わせ、カラーリングとロゴを100案以上作った。

   商品開発グループの木戸亮介さん(当時)は、唯一の男性としてチームをまとめ、検討結果を会社に提案する役割を担った。入社17年目で、容器開発や生産管理の部門を経験し、商品開発グループに在籍。意見は出さず、メンバーたちが働く環境を整えるために「会社との板ばさみになることも多かった」が、得られたものは大きかったと振り返る。

「なでしこチームは、今年が元年。男性社員と同じように仕事を任せることで、メンバーは責任感を強めていった。その結果、社内会議や流通商談の場面でも、女性が主体となって説得力あるプレゼンができるまでになった」

   リニューアル後の売上は、前年比約120%の伸びとなり、今後も成長する見込みだ。「なでしこプロジェクト」は一時的なものではなく、今後もメンバーを入れ替えながら継続的にこれからも女性に受け入れられる商品開発を充実していきたいということだ。