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クルーズの残業削減「残れまテン」制度 労働時間と売り上げは必ずしも比例しない!

   ソーシャルゲームなどのインターネットサービスを提供するエンターテインメント企業のCROOZ(クルーズ)。「働く環境を良くする」をモットーに「エンタメ感」溢れる数多くのユニーク人事制度を運用していると話題だ。

   六本木ヒルズ森タワーの38階、「CROOZ」ロゴの扉の向こうに広がるエントランスは宇宙船さながらの異空間。受付電話で来訪を伝え、操縦席のようなイスでしばし待機。タッチパネルのゲーム機らしきものに触れると、こんなクイズが映し出された。

「Q1 CROOZでは22時以降会社にいることができない。ホント? ウソ?」

「2時間の仕事を30分で」思考の切り替えが大事

原因は人員なのか、マネジメントか。残業は「問題の表れ」と考え、役員会が解消策を検討する
原因は人員なのか、マネジメントか。残業は「問題の表れ」と考え、役員会が解消策を検討する

   クイズの答えは「ホント」。これは同社の人事制度の一つ、「残れまテン」を指している。名付け親である同社取締役、プライスレス本部・執行役員の対馬慶祐氏は、人事制度を考える上でネーミングはとても大事なポイントである、と語る。

「制度を運用に乗せるためには、その言葉が社内で一人歩きしていくような、シンプルかつイメージしやすいものがいいと考えました。最近では採用面接でも、求職者から『ウェブサイトで残れまテンのことを知り、興味を抱いた』と言われることもあります」

   「残れまテン」が制度化されたのは2010年。制度化の主な目的は、仕事の効率化と社員の体調管理だった。導入直後の社内の様子を、対馬氏は今でも鮮明に覚えている。

「それまで終電近くまで残っていた社員の多くが、22時までに退社するようになりました。制度としての即効性はあったと思いますし、その効果は今も変わりません。大切なのは、役員全員が残れまテンを徹底して守っていること。我々が率先して守り続けるのが、制度を風化させないポイントだと思います」

   JASDAQ上場会社でもある同社。当初は残業時間の短縮が売り上げの足を引っ張らないか、との不安の声も挙がった。しかし「残れまテン」導入後も、売り上げは伸びたままだ。

「売り上げは、必ずしも労働時間に比例するわけではありません。私が入社した創業当時(約10年前)は、仕事が深夜に及び会社に宿泊することが頻繁にありました。現在の総労働時間は創業当時の労働時間と比較すると激減していますが、売上は10倍以上になっています。売り上げか残業削減かの二者択一ではなく、22時退社で売り上げを上げるにはどうすればいいのかを考える。2時間の仕事を、どうすれば30分で終わらせられるか。そうした思考への切り替えが一番の狙いでもあり、その効果が業績向上にもつながっていると感じています」

ルールの徹底で「チームの問題点」をあぶりだす

   現在、CROOZのオフィスでは約450人の社員が働いている。ほとんどの社員は22時までには退社するが、トラブル対応や納期スケジュールなどの関係で、どうしても22時以降も残業を続ける社員も全体の1割くらいは存在する。

   人事では対応策の一つとして、22時以降の残業チームの一覧を月次の役員会に提出し、人事がそのチームへのヒアリングを通して改善策を模索する。「残れまテン」が果たしている本質的な役割は、実はそのチェック機能にあるようだ。

「残れまテンが守れないのは、チームの中に何か問題があるから。会社として人員が足りないとか、ディレクターのプロジェクト納期の設定が甘いといった要因ですが、チームが内包している問題点が、ルールによって視覚的に分かるようになる。問題点が目に見えればそれを改善してあげられるきっかけにもなります」

   制度を陳腐化させないためのチェック機能は、3年目の今も変わらない。社内にTVシステムのモニターを活用し「ただいま、21時50分です」というアナウンスを流し、持ち回りでオフィス内を巡回し、「1分前ですから、退社してください」と伝える。

「社員数が20、30人のときに作った人事制度が、450人に増えた社内で本当に必要なのかどうか? そうした見直しは常にやるというのが、本当に大事だと思います。せっかく作ったのだからとダラダラと残しておくということは、当社の人事制度に関してはありません」

   この他にも同社では、アルバイトスタッフも投稿できる「意見箱」を社内システムの中に置いたり、無駄な会議の廃止を意識したスタンディングテーブルを設置したりするなど、業務改善のユニークなしくみを続々と作っている。TVシステムのモニターに「陰の功労者」の同僚の活躍を表示させる「すごイイネ!」ボタンなど、エンタメ性が豊かなところも特長だ。

伊藤秀範(月刊「人事マネジメント」編集部・記者)