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ノマド時代に「普通の人」が生き残る道

   前回は「ノマド」の基本的な概念を紹介しましたが、これに現代的な意味を付加した人がいます。ジャック・アタリという経済学者・思想家は「21世紀の歴史」(原著の初版2006年。2008年邦訳刊、作品社)という本のなかで、未来の世界を予想しています。

   テクノロジーの進歩によってグローバル化がどんどんと進んでいくと、世界の人々は3つの階層に分かれるだろうと予想しています。それが「超(ハイパー)ノマド」「ヴァーチャルノマド」、そして「下層ノマド」という分け方です。

世界で活躍する錯覚の中に生きる「ヴァーチャルノマド」

ドバイにはハイパーノマドと下層ノマドの格差が象徴的に表れている
ドバイにはハイパーノマドと下層ノマドの格差が象徴的に表れている

   「超ノマド」率いるグローバル企業やクリエイティブな個人は、21世紀には新しい支配階級となる。そして国(近代国家)の力はだんだんと衰えていき、世界規模での階層化が進む超格差社会になる――。アタリはこう予測しています。

   アタリの3つの階級について詳しく紹介しましょう。「超ノマド」はテクノロジーとグローバル化、資本主義の恩恵を最大限に受ける人。それらを武器に、世界中のどこにでも出かけて行って富を作り出します。

   定住地を持たず、世界中を動きまわって都合のよい場所に会社や住居を構えます。具体的な職業としては、アタリは次のようなものを挙げています。

資本家、起業家、グローバル企業の経営者、保険や娯楽産業の経営者、銀行家、ソフトウェアの設計者、発明者、法律家、金融業者、作家、デザイナー、アーティスト

   「ヴァーチャルノマド」は、国境の中に定住する中産階級。超ノマドが創るグローバル企業のサービスを消費する側で、次のような職業がこれに当たります。

ホワイトカラー、商人、医者、看護師、弁護士、裁判官、警察官、行政担当者、教師、デベロッパー、研究所勤務の研究者、技術者、技術労働者、サービス業に勤務する者

   TwitterやFacebook、Google、AppleやMicrosoft。マクドナルドにスターバックス、ユニクロ、ハリウッド映画――。彼らはこれらグローバル企業のサービスに、生活のすべてを依存してしまうようになります。

   定住しながら一日中これらのサービスを消費し、仮想空間の中で「自分が世界で活躍しているような錯覚」を得て、自己アイデンティティを作り上げます。

「超ノマド」はムリでも「下層ノマド」への転落は避けるべき

   「下層ノマド」は、仕事を求めてさまよい続ける貧民層。簡単にいうと、グローバル版「出稼ぎ労働者」です。過去の労働者は田舎の農村部から、職や住居を求めて都市部へ移動しきました。これと同じようなことが、国境をまたいで起こる可能性があります。

   現実にUAEの首都ドバイの建設現場で、24時間体制でビルを作っているのはインドやパキスタンから来た出稼ぎ労働者です。彼らは半年や1年限定のビザを持って、建設現場で働きます。仕事がなくなれば国外追放され、そしてまた別の国の建設現場で働くのです。

   このような未来予測を受けて、私たちはどうすればよいのでしょうか。「そんな未来は受け入れがたい」と直視を避けていると、知らないうちに悪い方に巻き込まれるリスクがあります。現実を認め、それに備えておく方が賢明です。

   超ノマドを目指せる人は、それに向かって厳しい国際競争に挑んでいけばいいと思いますが、問題はそうでない普通の人々です。もちろん日本政府の政策などに問題がないわけではありませんが、政府は変わるかもしれないし、そうでないかもしれない。それを変えろと叫び続けると同時に、個人でできるところは個人でサバイバルしていく意識が大事です。

   例えば、単価が下がるフリーランスの人は、生活費の安い田舎や、または思い切って生活費が3分の1くらいになるアジアの国に移住し、リモートで東京の仕事を受注することもできます。単価はそれでも下がっていくでしょうが、生活費をもっと下げれば相対的には余裕ができます。そして、その余裕の間に技能を上げる自己投資をする。

   超ノマドを目指さない普通の人が、どうやって生き残っていったらいいのか。前回紹介した「固定的なものからの脱却」もその一つですが、今後もこの連載で引き継ぎヒントを紹介していきたいと思います。(大石哲之)