J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

ブラック企業の本質は「詐欺のような昇進制度」にある

   外食チェーンやアパレルで「ブラック企業」と言われるところがありますが、これは労働時間のキツさやノルマの厳しさのためだけではありません。本当の理由は、その昇進の制度にあります。

   例えば、かの有名アパレルブランドの場合、新卒で入社した人のほとんどが店長としてキャリアをスタートさせます。しかしながら、その人たちは店長をやるために入社したわけではないのです。

現場からスタートするも、結局は幹部になれず

こんな仕事がいつまで続くのか。話が違うんじゃないのか…
こんな仕事がいつまで続くのか。話が違うんじゃないのか…

   説明会で、会社は「グローバルに活躍する人材が欲しい」「経営者を育てる」といったことを言っています。そのため、経営とかグローバルとか、そういったキーワードに感度の高い人が集まってきます。

   ところが実際に仕事をするとなると、やらされるのは店長です。理想と現場のギャップに、「言ってたことと違うじゃないか」と感じることでしょう。この、言っていたことと現実が大きく違うというのが、本当の意味での「ブラック」なのです。

   経営とかグローバルというのは、嘘ではありません。店長として凄まじい好成績をあげて、頭角をみせた超優秀人材は確かに本社に登用されています。しかし全員ではありません。その比率は5%程度だといえますが、これを多いとみるのか少ないと見るのか。

   本社に行けばグローバルな店舗の戦略を立てたりすることも可能です。

   そして、この構図自体が、ブラックそのものなのです。5%しか実現可能性のない夢を掲げて競争させ、95%の人はそれが叶わず、日々の店長業務で心身をすり減らします。そして大量の離職。お店自体が回らなくなるという悪循環に陥りかねません。

   他にも、現場を経験しなければ幹部には上げない、という企業は多いです。運送会社でも本社に行くには、トラックの運転手から始めるところ(期限は決まってません)、外食では店舗から始めるところ、コンビニ本社も新人は直営店の店長から、といった具合です。

「いずれ本社」を餌に、過重労働を強いられる構図

   しかも上が詰まっていると、2~3年の修業だからということで店長をやっていたつもりが、気づいたら10年くらい経ち、そのうち「もう本社に行くことはない」と告げられたり。

   さすがに製造業ではこういうことはありません。「最初は現場だから、つまり工場で組立をやってもらうよ。凄い組立ができる工員になったら、本社に登用する」。こんなことをいうところはありません。しかし、外食やアパレルでは似たような構図で通用してしまいます。

   「いずれ本社」を餌に、店長やドライバーなどの現場業務を明確な期限もなく、しかも幹部候補生だからという理由で、アルバイトを遥かに超える過剰労働をやらせるというのは、ほとんど詐欺ではないでしょうか。

   もちろん、これは日本型の雇用という名目だから、そうなっています。幹部候補も最初は現場で育てて長期的に育てると。しかし、実際は上のポジションは詰まっていて、彼らはずっと現場です。

   外食やアパレルの例ばかり目立っていますが、この構図は銀行や証券会社、保険、テレビ局だって似たようなもの。まずは地方の支店で営業職から始めてと言われて、そして一生地方の支店で終わります。本社は人が多すぎて、もう席はないのです。

   解決策は2つです。ひとつはほぼ全員、もしくは半数以上を本社に登用すること。しかし、そんなことはできるでしょうか。すでに本社には人がたくさん余っています。

「昇進はないけど定時で上がれる」仕事でもよいか

   もう1つは、現場は現場で採用して、本社へのパスはなくすこと。店長は一生店長で、昇進はしません。給与も大して変わらない。幹部候補ではない旨を明確にします。本社には登用されません。

   その代わり、過度な責任は負わない。時間も明確に区切って終わる。現場の裁量をなくし、本社の指示通りに商品を並べますが、売れない場合は、責任は本社が追う。

   現場と本社を明確に区切るのは、いわゆる欧米式です。欧米ではアップルストアの店長もスタバの店長もGAPの店長も、そういう位置づけです。

   以前、日本の若い人たちにこう尋ねたことがあります。

「最初はブラック労働だけど5%の人が本社に行けて、グローバルな仕事ができて給与もあがる会社と、絶対に本社には行けなくて給与は低く昇給もないけど、ホワイトで定時に帰れる会社のどっちがいい?」

   2択を迫られると、多くの人が「うっ」と言葉を濁していました。「健全なホワイト労働で、全員が本社に行ける会社がいいんですけれどもね……」。

   しかし、両方を満たした職場は、もう考えられません。この議論は、どちらを選ぶか、ということです。さあ、あなたならどちらを選びますか?(大石哲之)