J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

不正に手を染めてしまう「デキる人」と「デキない人」

   「売上の過大計上」という不正の手口がある。現金や預金を直接横領するわけではないが、自分の業績を水増しすることによって会社から高い評価を得て、昇格や賞与アップを不正に獲得しようという点では、私利私欲に変わりない。

   先月公表された東証1部上場の物流サービス会社における不祥事も、その典型だ。現場を預かるセンター長が成績不振のプレッシャーを抱え込み、現場のトップの権限を利用すれば「簡単にごまかせる」と気づく。そして「センターの地位を上げるために」などと正当化して売上水増しに手を染めるという「不正のトライアングル」の条件を満たした例でもある。

5年で10億円もの架空売上がバレずに通っていた

左遷された社員が一発逆転をねらって不正に手を染める場合も
左遷された社員が一発逆転をねらって不正に手を染める場合も

   勤続10年以上の経験豊富なセンター長は、営業成績を水増しするために、特定の顧客に対する売上金額を経理部に対して過大に報告し、請求書や帳簿も偽装して隠し続けていた。水増し金額は5年間で10億円に上る。

   社内調査委員会の報告書によると、センター長は「自己の業績が不振であり、自身の評価上昇と報酬の確保を目的に」売上の水増しを続けたそうだ。本社から表彰金をもらえれば部下のやりがいも高まるし、何より自分の地位が強固になると考え、不正を正当化したのだろう。

   それにしても、こんな手口を使えば売掛金額と顧客からの入金額が合わず、すぐに不正が発覚しそうなものだが、なぜ5年間も隠し通せたのだろうか。調査報告書を読むと、毎度おなじみの原因が指摘されている。

・売上請求から売掛金回収、業者選定から経費支払まで、センター長が1人ですべて処理できる状況になっていた(現場のトップが暴走できる状況が放置されていた)
・営業本部は業績不振の拠点を重点的にモニタリングしていたため、架空売上で好調な業績を装っていたセンター長にチェックの目が行き届かなかった
・経理部は、売掛金と入金額の食い違いに気づいてセンター長に説明を求めたが、「検収のタイミングのズレ」などといった巧妙なごまかしを信じ切ってしまった
・センター長ともあろう人物が、まさか請求書の偽造をするなどとは誰も思わなかった(不正リスクの想定が甘かった)

「丸投げ」が起きる2つのパターン

   この手の不正で見られる「現場の責任者に丸投げしていて見逃した」というパターンは、なぜこうも多発するのだろうか。いささか乱暴な分け方だが、仕事が「デキる人型」と「デキない人型」の2つが考えられる。

   「デキる人型」の典型例は、会社が高く評価している社員に、過度の期待をかけたり信頼しすぎたりしてしまうパターンだ。そのような立場に置かれた社員がスランプに陥り、保身のために信頼を逆手にとって架空売上などの不正に走るのが典型的である。あるいは、自分は特別待遇だと勘違いして経費を濫用するような不正も起き得る。

   一方、「デキない人型」とは、たとえて言えば、会社が地方拠点や子会社に左遷した社員をそこで塩漬けにしてしまうパターンだ。会社側はその社員を厄介払いし、転勤先の上司もできるだけ関わりたくないと放っておく。左遷された本人は一発逆転を焦って不正会計に手を染めたり、不本意な処遇をした会社に対する仕返しの思いから横領などに走ったりする場合が見られる。

   センター長はどちらのパターンだったのだろうか? 入社10年でセンター長までは出世したものの、その先に行き詰まりを感じ、こんな所で終わってたまるかという焦りと、センター長止まりで終わるならその役得をしっかりいただこうという打算。調査報告書からだけでは何とも言えないが、両方がない交ぜになった心理状態だったのかもしれない。

   ちなみに、センター長の不正は架空売上に止まらなかった。出入りの清掃業者と共謀して、2年間に3000万円近いキックバックも受け取っていたというのだ。不正会計がいつかは見つかるという恐れから自暴自棄になったのか。あるいは、そもそも倫理観が欠如していたのか。「人はなぜ不正をするのか」は奥の深い難問である。(甘粕潔)