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現代日本人の「人生の選択肢」 多いか少ないか

   前回、「キューバ人の人生の選択肢は少ない」という話をしましたが、このような見方に強く反論してくる日本人がたまにいます。

「日本人の人生の選択肢は年々減っているじゃないか! だから社会に閉塞感があるんだ!」

   国際的に客観的に見れば、豊かな日本の選択肢が圧倒的に多いのは確かなのですが、国内の視点しかないと、なぜかそう感じられなくなってしまうのです。

日本の就活の選択肢は意外にも多い

シンガポールのリトルインディア。カレーだけでもこんなに選択肢がある
シンガポールのリトルインディア。カレーだけでもこんなに選択肢がある

   まず、学校を卒業してからの就活の選択肢ですが、諸外国と比べて意外にも「非常に多い」と言っていいでしょう。そもそも業務に役立つ知識や経験のない新卒者を好んで雇って育ててくれるシステムなんて、日本以外にはまず見られないからです。

   多くの先進国では新卒一括採用は行われておらず、新卒であっても社会人経験者に混じって仕事を探します。そんな中、未経験者でも雇ってくれる企業などかなり少ないです。日本のように、一部上場大企業が幹部候補として何百人も雇ってくれるのは非常に恵まれています。

   さらに、ネット就活によって選択肢が増えています。私が就活をした1998年(就職氷河期!)は、大学4年生の家にはリクルートから百科事典のように分厚い「就活キット」が送られてきました。

   これに、大量の就活応募ハガキが入っていて、そのハガキを出して会社説明会に応募する、なんて事をやっていたのです。このキットは大学のランクによって中身が異なり、Fランク大学には一部上場大企業の応募ハガキは入っていませんでした。

   今では「大学名限定の説明会」などをやると大きな話題になるように、建前上はだれでも応募できるようになっています。その分、迷いが増えたり、門前払いを受ける率が高まって挫折感が募るデメリットがあります。

   特に、正社員として雇われるか否かによって大きな格差が生じるため、就活生は膨大な選択肢と、選択による将来への大きな影響が一気にのしかかります。ただでさえ選択肢が多すぎるのに、その選択の重要度が非常に大きく、「就活」という選択の儀式の重要度が高すぎてパンクしてしまう。これも選択肢が多いことによる副産物です。

入社した途端に選択肢を一気に狭める日本の大企業

   一方、膨大な選択肢の中から自分に合ったものを見つけ出し、日本の一流企業に正社員として内定をゲットした「勝ち組」には、大きな変化が待ち受けています。人生の選択肢が年々減っていくのです。例えば大手自動車会社に入ると、次のような「レール」が待っています。

22歳 社員寮に入寮(=同じ給料で寮がない会社に転職しにくくなる)
25歳 ローンで自動車購入(=駐車場がないところに住みにくくなる)
30歳 結婚して社宅に入る(=引っ越しできなくなる)
35歳 会社の優待住宅ローンでマイホーム購入(=絶対に会社を辞められなくなる)

   特に、会社のローンでマイホームを買うと、会社を辞めた時に全額返済しなくてはならないルールになっている場合があります。転職をする際に借り換えしようにも、信用度の高い大企業から転職する際には借り換え金利が上がる可能性が高いので、ローン支払額が増大します。

   このようにして自分で自分の選択肢を減らしているのですが、そのことで不幸になる人ばかりではなく、幸せになる人もいます。前回も書いたように、選択肢が多いことは必ずしも幸せなことではないからです。

   会社の周りの人と同じように車やマイホームを買い、言われた仕事をこなしながら、イヤなことがあれば飲み屋でくだをまき、ビールを飲みながら「倍返しだ!」と戦うドラマの主人公を見てスッキリする人生も悪くないです。そんな人たちにとって、新卒時に広い間口で大企業が受け入れてくれて、その後選択肢を狭めてくれる日本の終身雇用の仕組みは、非常に良くできていると思います。

   しかしキューバにも「一刻も早く亡命したい」という人がいるように、選択肢が多い方が幸せな日本人もいるわけです。私は「就活」の儀式でいい選択肢を選べず挫折してしまった人や、就活で「勝った」のにその後の人生の選択肢の少なさに疑問を持っている人たちに、様々な人生の選択肢を提供したいと思っています。(森山たつを)