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「もうしません」で許されるのか? 読プレ「景品発送数の水増し」

   何年間にもわたって雑誌プレゼントの当選者数を水増ししていたとして、『週刊少年チャンピオン』などを発行する秋田書店が、消費者庁から景品表示法に基づく措置命令を受けた。

   処分の内容は、意外なほど軽い。「水増ししていた事実を一般消費者に周知徹底すること」と「不正の再発防止策を講じて、役職員に周知徹底すること」「今後同様の不正を行わないこと」の3つだけだ。

「ハズレばかりのくじ引き」は逮捕されたのに

   消費者庁が公表した秋田書店の不正は、622件にものぼる。誌上に掲載された当選者数が2名から5名であるのに対して、実際の当選者は1名がほとんど。「全国百貨店共通商品券1万円分」や「ニンテンドー DS Lite」などの高額商品はほとんどが0だ。

   しかも架空の当選者名をでっちあげるなど、不正の手口は担当者間で引き継がれていた。不正の事実を知って「おかしい」と上司に訴えた担当者は、上司から「会社にいたかったら文句を言わずに黙って仕事をしろ」とたしなめられたという報道もある。

   秋田書店に同情的に考える人は、こう言うかもしれない。元々は強い悪意を持って始められたわけではないだろうし、多かれ少なかれ似たようなことは他の出版社でも起きていて、読者もうすうす分かっているのではないかと。

   J-CASTニュースの取材でも、ある出版社の男性が「他の業務に追われてプレゼントの発送まで手が回らず、結局発送せずに終わってしまったケースが数回あった」と答えている。最初は「他の仕事が忙しくて」「つい面倒になって」というのがきっかけで、手抜きの方法が慣例として定着してしまった可能性も低くない。

   また、「読者から何かをだまし取ったわけではない」という言い訳も考えられる。読者に直接的な損害を与えたのではなく、当たる人数が正しくなかっただけと。

   しかし、似たような件で逮捕された人もいる。先日、露店アルバイトの男性(45)が逮捕されたのは、夏祭りの夜店で「ハズレばかりのくじ引き」を販売していた容疑だ。ゲーム機を当てようと1回300円のくじに1万円以上つぎ込んだ客が不審に思い、警察に通報したとのこと。

   露天商は1日10万円くらい詐取していたようだが、構図としては秋田書店も同じようなものだ。読者プレゼントをエサに何万人もの読者に雑誌を買わせてきたことを考えると、もっと厳しい制裁を受けるべきではないか。

「読者プレゼント」の実施はもう難しい?

   当選者数水増し不正にも、典型的な「不正のトライアングル」が想定できる。

金銭的プレッシャー:「読者プレゼントの商品はかつてメーカーから無料でもらえていたが、最近はそうでなくなった」と関係者はコメントしている。予算を削りながらキャンペーンを続けなければならない、というプレッシャーに直面したのだろう。
機会:「毎回当選者名は発表しているし、実際に届いたかどうかを読者がチェックできない」「会社も容認しており処分されることもない」などと考えれば、「バレないから大丈夫」という認識が高まる。
正当化:「毎回(少なくとも1人は)当選者を出している」「前からやっている」「前任者からの引継ぎどおりやっているだけ」「上司の指示だから」「他の出版社だって多かれ少なかれやってるだろう」等々、身勝手な言い訳はいくらでも考えつく。

   「当選者の発表は発送をもって代えさせていただきます」という企業懸賞がいかにあてにならないかについては、以前から指摘があった。3年前にも佐賀のFM放送局がプレゼント用にビール会社から無料提供を受けた新商品の一部を、社員の宴会に使っていた問題が発覚したこともあった。

   プレゼントを提供するスポンサー側には、賞品がどのように使われたかを何らかの方法で確認したいというニーズがあるが、個人情報の授受の問題もあり、ノーチェック状態に置かれる場合がほとんどだという。

   読者の信頼を回復するには抽選過程を公開するなどの方法も考えられるが、それでも実際に発送されたかどうか確認することは容易ではない。秋田書店の一件は、読者プレゼントを存続の危機に追いやってしまうと考えるのは大げさだろうか。信頼を失うことがどれだけ重大なことか。同社の経営陣は遅まきながら痛感しているはずだ。(甘粕潔)