J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

創業社長と二代目の対立 行き詰まったら「従業員」に聞け

   1年ほど前のお話です。親戚筋で大手電機メーカーの下請けをかれこれ40年以上続けるD社社長が、法事の席でこんな愚痴をこぼしていました。

「デフレが一向に改善しないものだから、今年になってますます下請けイジメひどくなっていましてね。中には完全赤字受注もあって、やればやるほど損が出る。長年の付き合いなのに本当にひどい話ですよ」

社長は「なんとか耐える」、息子は「とっとと解散したい」

「デフレが解消されれば取引条件は好転する、なんて甘い話でしょ」
「デフレが解消されれば取引条件は好転する、なんて甘い話でしょ」

   アベノミクスでデフレ脱却に動いていると言われますが、その影響はD社まではまだ届いていません。下請けをいじめれば苦境を乗り切れるという大手の体質は何とかしてもらいたいものだと、社長は嘆いていました。

   下請け企業は東南アジアとの低コスト競争を強いられ、発注元が指定する価格水準まで下げなければ仕事がもらえない状況。そうは言っても、もう値引きは限界です。

「とはいえ、うちが海外に出て行くなんて到底出来ない。昔の貯金を吐き出しながら、景気が回復するのをじっと待つだけですよ。元請けの部長さんも『今は耐えて支えてくれ』と言っていますしね。4人の従業員は、息子以外は皆50代以上だけど、彼らをあと数年食べさせられるかどうかでしょうね」

   酒の勢いもあってか愚痴が止まらない社長でしたが、最後に言った「自分は何とか持ちこたえて次につなげたいが、息子は意見が違うらしい」という言葉が気になりました。

   ご子息は32歳。物心ついた頃にはバブルも弾けていて、実質的に好景気を経験したことのない世代です。そこで社長がいないときを見計らって、彼に会社の将来に関する考え方をたずねると、こんな話をしてくれました。

「父はデフレが解消されれば取引条件は好転する、オイルショックの時もそうだったと言っていますが、僕は疑問です。長年の付き合いだからと期待しているようだけれど、今の時代、大手はそんなに甘くないですよ」

「カネより仕事」従業員の熱意に動かされる

   彼としては資金が底をつかないうちに、皆で退職金をもらって会社を解散すべきだと考えているようです。「そしたら僕はその資金でラーメン屋でも始めます」と言った彼の目は笑っていませんでした。

   このような親子の考え方の違いは、あちこちの企業で展開されている「創業者と二代目との意見対立」の問題といえるでしょう。

   長年会社を引っ張ってきた社長は、会社に対する思い入れが人一倍強い。対するご子息は、悲観的で短期的な解決に流れがち。育った時代環境の違いが輪を掛けています。

   この手の問題に正解はありませんが、経営者が考えなくてはいけないことは「会社は誰のものか」というステークホルダー重視の観点です。株主たるオーナー一族の意向も重要ですが、数は少なくともそこで働くことで生計を立てる従業員の意向も忘れてはなりません。

   そんなアドバイスを社長に耳打ちして別れたところ、元旦に社長から届いた年賀状には「おかげさまで、息子と力を合わせて頑張っています」とありました。

   ご子息によると、社内で話し合ったところ、

「従業員は皆『カネより仕事』で一致。仕事への熱意を感じさせる真剣で前向きな語り口に、大きなものを教えられた気がしました」

   社員全員で新規受注を取りに行こうと、日々精を出しているとのことでした。

最終的には復活しないかもしれないが

   ――と、一時は良い方向に向かったのですが、所詮ロートル会社の改革には限界があり、そこに将来ある息子を巻き込むのもかわいそうだと、今年の夏に再度話し合いを持ったそうです。

   そして「会社を数年持たせること」は社長の役目、ご子息は「自分が将来にわたって食べていける新ビジネスを作れ」ということで動き出しました。

   最終的に会社が復活するかどうかは、分かりません。それでも創業者と後継者が自分たちだけで勝手に判断すれば、すべてのステークホルダーにとって後味の悪いものになったに違いありません。

   大事な従業員を巻き込んで相談することで、「会社の延命だけを考える社長」と「会社を安楽死させることを望む後継者」が反目せずに新たな方向に向かうことができたとすれば、喜ばしいことではないでしょうか。(大関暁夫)