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非サラリーマン的業界の「飲食業」に、有休も組合もある会社がある

   2013年も10月に入った。ほんの2年前までは、ここからが「就活シーズン」のスタートだったが、2013年度卒の学生から、採用選考に応募できるのは12月からである。とはいえ「意識の高い学生」たちにとっては、すでに動き始める時期に違いない。

   「ブラック企業への就職をいかに忌避するか!?」というテーマは、昨今の学生にとって検討の優先順位が高まっている。彼らに言わせれば、「SEはブラック、量販店はブラック、住宅販売はブラック、証券営業もブラック。ましてや飲食なんて…」というところだろう。

ブラック労働の背景に「日本人の異常な食のこだわり」も

終電までには…
終電までには…

   確かに飲食業は、私が就活生だった15年前からずっとブラック業界の代名詞的存在であり続けている。口コミサイトのキャリコネによる「学生が絶対に就職したくない企業ランキング」のトップ10でも、堂々1位のモンテローザを皮切りにワタミ、ゼンショー、王将を含め4社がランクインしている。

   なぜ飲食業はブラック化するのか。いろいろと理由はあるが、まずは競争が激しいので、結果的に「低価格」や「長い営業時間」で利便性を追求せざるを得なくなり、しわ寄せが労働者の長時間労働や低賃金化に繋がってしまうという構造がある。

   そもそも飲食業が自営業的であり、サラリーマン的な働きから逸脱しがちなのは、世界共通の現象だ。さらに日本人の場合、味や衛生状態、サービスのきめ細やかさに至るまで、食に関するコストパフォーマンスに異常なこだわりがあるという特徴も否定できない。

   営業時間以外にも、食材の仕込みや清掃などの付帯的な業務時間は必要だし、アルバイトに残業をさせたり、深夜まで働かせたりすると時給も割高になるため、結果的に社員が長時間労働せざるを得なくなるという悪循環に陥り、疲弊している現場も多い。

   「安くて、いつでもやってる」状態はユーザーにとってはありがたい限りだが、そこで働く側にとっては真逆になる。しかも、景気回復の兆しが見えたことで、全体的な求人採用動向も好調になってきた。ブラックである可能性が高いことが最初から分かっている業界にあえて入ろうとする人材が少なくなれば、企業側にとっても問題だ。

   そんな「総ブラック状態」と言われがちな飲食業だが、中にはブラック度合いが相対的に低い会社も存在している。しかも、意外と皆さんの身近にあったりするのだ。

「天狗」のテンアライドは「23時半閉店」が原則

   居酒屋「天狗」や「テング酒場」を展開するテンアライドは、創業した40年前から「顧客満足の実現は、従業員満足から」を合言葉に、従業員への配慮を欠かさない企業だ。

   店長手当のほか、住宅手当(家賃半額補助)や持家手当を支給。持株制度や退職金制度も完備している。アルバイトなら給与の週払いも選べ、経験を積めばバイトでも正社員並みの給与を得ている人もいるようだ。

   休暇は通常の有給休暇に加え、産休、育休、介護休暇、そして夏冬各5日間の連続休暇制度がある。制度として存在するだけではなく、社長自ら「休みをとれ」と促しており、実際に取得できているようだ。しかも有休は、パートやアルバイトにまで付与される。

   居酒屋ながら驚くのは、「全店舗、基本的に深夜営業ナシ。閉店は23時半」を徹底しているところだ。しかも、アルバイトも加入できる労働組合まで存在している。

「朝まで働いて昼間に眠るのではなく、昼間の時間は自分のために使い、健康的な生活を送って欲しい」

   という思いから、店を開けていれば売上増間違いなしの新宿や池袋エリアの店でも、このルールに則って営業されているのが素晴らしい。さすがに渋谷では0時までの営業のようだが、それでも終電で帰れる時間だ。

   言ってみれば、お客の「ありがとう」より、社員への「お疲れさま」を優先する会社と言えるだろう。「社員は家族」「ウチはブラックではない」と豪語する創業者の某企業よりも、よほどすぐれた労働環境だが、ことさらホワイトアピールをしない奥ゆかしさも同社の魅力だ。口先だけで努力や姿勢を語るよりも、「実際に何をやっているか」、というリアルを観察することが重要だ。(新田龍)