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「社長の本心」は社員にこんなに見抜かれている 「愛ある叱責」と「道具視の罵倒」の違い

   私はコンサルティング依頼を受けて着手する際にいただいた改善テーマの根っこを探る意味で、たいていの場合、事前の社員アンケートや個別やグループヒアリングをおこないます。本音を聞き出すべく、匿名もしくは個別記載情報の依頼者への非開示を条件に実施するのですが、社員が実は社長の真実をよく見ていて感心させられることが多いです。

   A社社長は自ら起業し、会社を約10年で100人規模にまで成長させた創業オーナーです。会社をゼロからここまで大きくしたのですから、その牽引力たるや素晴らしいものがあり、言いかえれば人一倍のワンマンなればこそなし得たものでもあるのです。

口は悪いが「一生懸命働いている皆にはいつも感謝している」

「怒ってる」にもいろいろあります
「怒ってる」にもいろいろあります

   とにかく人の話はほとんど聞かない、誰が相手だろうが自分のペースのマシンガントークでまくしたてるのが彼のスタイル。社員に対する叱責も厳しく、歯に衣を着せることなく思うがままに言い放つので、それを見るたび、これで社員がついて行くのだろうか、離職率が高くなりはしないのかと不安にもさせられたものです。

   ある時に社内活性化策策定の一環で、全社員への匿名、記載内容非開示のアンケート調査をしました。アンケートでは経営に対する評価、意見も求めたのですが、驚いたことに社長に対する不平不満は皆無だったのです。本当にそうなのか、例え記載情報非開示でも、社長を怖がって書きたいことを書かないのじゃないか、真意を確かめるべく実施した個別ヒアリングで社員の口をついて出てきたのは、「社長は常に社員の今や将来を気に掛けてくれていてうれしい」「なるべく長く社長の元で働きたい」という意見の数々だったのです。

   社長にヒアリングの中でそういった意見が多く驚いたと話をすると、彼は表情変えずに、「現場を回った際に、なるべく一人ひとりと話をするようにしているからね。僕は口は悪いし言いたいことはハッキリ言うけど、うちの会社で一生懸命働いている皆にはいつも感謝している。どんなことがあっても、彼らを路頭に迷わせるようなことだけはあっちゃいけない。それが経営者として一番のプレッシャーだ」と語ってくれました。なるほど経営者として素晴らしい心構えであり、思いは社員にはちゃんと伝わるものだと感心しました。

「社長に温かみを感じない」

   A社の話とはとはまったく関係のないB社社長から、ある時「社員が前向きじゃない、個人主義、会社批判が多い、離職率が高い」との相談がありました。彼は創業家の二代目ですがワンマンな亡き先代を見て育ったせいか、彼もまたA社社長に勝るとも劣らないワンマンで恐怖政治に近いものを感じさせるマネジメント・スタイルでした。このケースでもA社同様、全社員への匿名アンケート調査をおこないました。すると、こちらでは社長への不平不満が一気に噴き出したのです。

「社長に温かみを感じない。創業家が資産を持ち逃げしていつ会社がなくなるか不安」
「社長が信用ならないから、利用されているだけなら自分も会社を利用するだけ」
「一生勤める会社じゃない。社員を道具と考えているのではないかと感じることがある」

   社長にこれらの書かれた内容をそれとなく伝えると、「言われることに全く思い当たるフシがない。ただ業績が今一つなので、目標管理の徹底と人事考課に厳正化をすすめた。その不満じゃないのか」との見解でした。原因はそれだけじゃないはずだと思い、様々な角度から分析を加えていったのですが、その過程で突然コンサルティングを中止して欲しいと申し出られました。その時に社長が話した内容から、事の全容に合点がいったのです。

本心は「解散持ち逃げ」

「調査を受けていろいろ考えたが、社員が会社を一時的に利用しようと感じているのなら、今さら余計な出費はしたくない。このままジリ貧になるのならなおのこと。オヤジから会社を引き継いだ段階から思っていたが、会社は言ってみればオヤジの遺産だから、なくさないうちに解散も視野に入れつつ進むまでだ。調査をしてよかったよ」

   恐ろしいことに、なんと社長の本心は「解散持ち逃げ」だったのです。そしてそれは、社長が直接言葉にしなくとも社員には伝わっていたと言うことなのです。私はこの話を聞いて、先のA社の話も引き合いに出しつつ社長に強く翻意を促しましたが、思いは固く残念ながら身を引くことになりました。

   同じ超ワンマン社長のA社とB社ですが、社員は社長の本心を日常行動から微妙に感じとっていて、社長言動に対する受け止め方はこんなにも異なるのです。社員は社長が思っている以上に、実によく社長の行動を見てその真意を分析しているのです。社長の本心は、善なるものも悪なるものも社員には必ず伝わるのだと、心する必要があるという教訓です。(大関暁夫)