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管理職の怠慢が不幸な社員・職員を生み出す 「億単位」横領事件が教える「組織の責任」

   大阪府河内長野市が公表した男性職員A(43歳)による、億単位の生活保護費横領事件。以前にも書いたが、(「なぜ根絶できない? 公務員による『生活保護費の着服』」)全国各地で同様の不祥事が後を絶たない。今回も「またか」とため息が出るような事件だ。

   横領の調査報告書には「お決まりの」流れがある。(1)経験豊富で能力の高い職員が、(2)上司や同僚から全幅の信頼を得て、(3)実質的に一人でカネの出し入れができる状況が放置されてしまうというものだ。そして、(4)人事異動後に後任者が異常に気づいて発覚し、(5)周囲の職員たちが「まさか、あの人が」と愕然とする。

あきれるほどに定番のストーリーが展開

横領事件、「お決まりの展開」とは
横領事件、「お決まりの展開」とは

   今回の事件もお決まりの展開だ。

・Aは約10年もの長きにわたり生活保護所管課に勤務。ケースワーカーのリーダー的存在で、支給管理のための電算システム操作や経理事務にも精通していた。
・そのため、歴代の上司から全幅の(無条件の)信頼を得ていた。
・そんな中、約4年半前に経理事務担当者が産休・育休に入った。経理とケースワーカーの業務は分離することになっていたが、あろうことか、上司はAに経理事務を兼務させた上に、任せきりにしまった。
・「やりたい放題」の状況で、Aは架空の支給データを入力して現金を引き出したり、同僚のケースワーカーに白地の領収書を入手させて隠ぺいに使ったりしながら、不正を繰り返した。
・2年半前、Aが他部署に異動。後任者が異常な支給記録や不自然な事務処理に気づいて上司に報告したが、上司はエラーと思い込んで放置してしまった。
・その後上司も異動となり、1年半前にようやく本格的な点検を実施。不正疑惑が深まり、警察に通報して調査を開始した。

   言うまでもなく、悪いのはAだ。すでに逮捕され懲戒免職となっている。逮捕後、市幹部との接見において「なんでこんなことをしたのか自分でも分かりません」と語ったそうだが、動機の解明も待たれる。

   しかし、不正の原因究明にあたっては、それを許した「組織の問題」を忘れてはならない。市も認めているとおり、Aによる不正は「手法としては大胆かつ稚拙であり、組織として通常のチェック体制が機能していれば、発生を防止できていた事案」と考えられる。当たり前の管理を怠った組織のずさんさを絶対に見過ごしてはならず、それを是正しなければ、いつかまた別の職員がAと同じように放置され、横領に手を染めるだろう。

「全幅の信頼」は禁物

   Aを擁護するつもりはさらさらないが、「大切な職員を放置して横領をさせてしまった」組織の責任も厳しく追及すべきだ。歴代の上司たちに対しても、在任期間、職責等に応じた処分を下さなければならない。「任せたよ。ちゃんとやってね」と言うだけなら誰でもできる。「ちゃんとやっているか」を厳しく見極めるのが管理職の最低限の仕事であり、「全幅の信頼」は禁物である。

   再発防止に向けては市長以下の幹部の危機感と本気度が厳しく問われる。市の報告書には、すでに以下のような対策を講じたと書いてあるが、その徹底は簡単ではない。

・経理事務、電算システム、現業員(ケースワーカー)の職務を分離
・金庫管理の適正化(定期的な点検)
・追加支給の定例化(月3回)
・資金前渡による随時払いの適正化(縮減)

   まず、職務の分離は、従来徹底すべきと分かっていながらできていなかったのだから、今さら対策リストに載せるだけでは何も変わらない。例えば、安易に兼務させてしまう現状を具体的にどう改善するのか。

   外資系の金融機関には、産休や長期休暇取得者の業務をカバーする専担者を置いているところもあるという。その目的は単なるカバーではなく、休暇取得者の業務内容の点検(不正の有無のチェックを含む)にある。そこまでやれとは言わないが、もはや従来のやり方の延長線上では不十分だろう。

   「適正化」や「定期的」などの言葉にも要注意である。何をもって適正とするのか、定期的とはどのくらいの間隔なのかが具体的に職員に伝われなければ、対策は絵に描いた餅になってしまう。これらを空疎な「お役所言葉」に終わらせてはならない。(甘粕潔)