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社長の「借金嫌い」で社員流出が止まらない? 「前向き投資」のチャレンジ怠りジリ貧の危機

   旧知の中小機械製造兼商社T社のS社長に久しぶりにお目にかかったのですが、今ひとつ元気がありません。アベノミクス効果で息を吹き返した大手企業の陰で、下請けの受注価格は依然下げ止まらず、リーマン、震災以降のダメージから未だに抜け出す兆しが見えないのだとか。

「大手は、デフレ景気下で下降線の一途をたどった価格を、ここに来ても一向に上げようともしない。自分たちだけが円安の恩恵とかで良くなっているようだけど、うちあたりは全く蚊帳の外」

先代が借金で苦労

借金といってもいろいろで・・・
借金といってもいろいろで・・・

   大手中堅の転職環境が良くなったことがあるのか、約50人の社員はここ半年で歯が抜けるようにポツリポツリと辞めていっているそうで、社内の雰囲気も沈滞ムード。まずは人材の流出を止めないと、会社の存続さえ危うくなりそうだと、危機感はかなりのものでした。

   S社長は二代目で、アイデアマンの父がファブレス(自社工場なし)方式の製造業と商社機能の複合で成長させた会社を引き継ぎ、先代譲りの発想の豊かさで独創的な新ビジネスを提案し順調に先導してきました。しかし、長引くデフレ景気はボディーブローのように効いてきて、新たなビジネス展開の発想はあるものの最近は次の一歩を踏み出す余裕がないと言います。

   「新しいビジネスに関しては、銀行の支店長は前向きな資金なら協力すると言ってくれているのだけど、人材の流出が止まらない現状ではまずは体制立て直しが最優先。大手さんは賞与軒並みアップとか景気のいい話が聞こえているけど、うちはこの冬の賞与は棚上げで次なる軍資金をため込まないとね。借金はしない主義なもので」とS社長。

   ジリ貧の業績に人材流出で沈滞ムードの社内、さらにこのまま賞与も支給できないとなると、一層の社員流出とモラールダウンが懸念されます。私は社長発言の最後、「借金はしない主義」という言葉がやけに気になったので、それは先代からの教えなのか否かを尋ねてみました。すると、先代が苦労の末借金がゼロにして会社を引き継いだので、基本的に借金はしたくないのだと。

会社を元気づけるための投資ならばそれは健全

   詳しく聞いてみると、先代は借金のおかげもあって会社を大きくしてきたものの、返済するのに苦労が多く借金減らしの人生だったとしつこく聞かされていたようで、どうやら「借り入れは悪」と決めつけた考えがS社長の頭には根強く植えつけられているようでした。

   S社長が言うところの借金は、確かに「借金地獄」とか「借金で首が回らない」などの言い回しが連想されて、何か非常に悪いモノのように思えてしまうのかもしれませんが、言い換えてみれば銀行借入の事です。その実は、事業を運営していくための他人資本であり別の表現を用いるのならば投資であるわけです。前向きな事業に対する投資や、社員のモチベーションをアップさせ会社を元気づけるための投資ならばそれは健全なものであり、決して悪い物ではありません。S社長の借金嫌いはちょっと思い直しをさせてあげる必要があるのかもしれないと思わされました。

「社長には新しいビジネスのアイデアもあって銀行も協力姿勢なのですから、思い切って借入をして今そのビジネスに着手したらいいじゃないですか。借入金をもとに新規ビジネスに乗り出すなら賞与も支給できますし、明るくなりますよ。社内に前向きな業務があるかないかで、社内のムードは確実に変わりますから」

   昔気質の創業経営者には、乱暴な貸金制度という時代的背景もあって借金で苦労した経験から「できればしない方がイイ」という考え方はそれなりの納得性を帯びて普通にあったものですが、自ら事業を立ち上げた訳でもなくバトンを受けただけの二代目が先代の教えを字面どおりに鵜呑みにしすぎて前向きな「事業投資」までも悪者扱いしてしまうケースが間々あります。チャレンジを怠ってジリ貧に甘んじる、そんな二代目経営者が意外に多いのです。

   私の話を聞いたS社長、険しい表情を変えることはありませんでしたが、「とりあえず銀行に行って腹を割って相談してみる」と少し気持ちを緩ませたようでした。きっと銀行が有益な協力とアドバイスをしてくれるのではないかと、期待しています。(大関暁夫)