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新しい「飲み場」を提案するサントリー ボトルキープ文化復活に挑戦

   カウンターの中に女性がいて、行き届いたサービスと落ち着いたBAR空間でマイボトルのウイスキーを楽しむことができる――。ありそうでなかったスタイルの飲食店「ウイスキーボトルバー」の展開を、サントリーがサポートしている。

   業態開発の裏には、どんなねらいがあったのか。そこには消費者や景気の動向、店舗運営者の世代交代など、さまざまな要素が絡み合っていた。「ウイスキーボトルバー」の運営支援を担当するサントリービア&スピリッツの鈴木敦氏に企画の裏側を聞いた。

ウイスキーの本質的価値を味わって欲しい

サントリー ビア&スピリッツ株式会社  鈴木敦氏
サントリー ビア&スピリッツ株式会社  鈴木敦氏

――ウイスキーの消費は、1970~80年代のスナック、ラウンジ業態が全盛期の時期でした。「ダルマ」の愛称で親しまれたサントリーオールドで、ウイスキーの味に親しんだサラリーマンの方も多かったはずです。

   嗜好の多様化によって、バブル期には酎ハイなどの人気が高まり、ウイスキーの消費は右肩下がりでしたが、ここ4~5年は「角ハイボール」のヒットなどで、復活の兆しがあります。

   しかし、若い人たちに聞くと「角ハイボールの中身はウイスキー」とすぐに答えられない人も中にはいるようです(笑い)。私たちとしては、このブームをハイボールだけで終わらせたくない、本格的なウイスキーの世界を味わえる新しい「飲み場」につなげていきたいのです。

   この30年間で、食業態やカラオケなどお酒を飲む場所も進化しましたし、新しい業態も増え、お客様のニーズも変化しています。これまでウイスキーそのものを味わう機会の少なかった30代から40代の働く人たちに、ウイスキーが美味しく飲め、様々なシーンで使えるお店として、ウイスキーボトルバーのスタイルを考えました。

   きっかけはバーでも、女性のいる店でもいいと思います。お客様に「自分はこういう銘柄を、こういう飲み方で飲むのが好きだ」という楽しみを発見していただき、ウイスキーの本質的な価値を味わっていただきたい。

   職場と自宅以外の第三の場所として、そこに行けばリラックスでき、同僚や取引先と落ち着いた話もでき、一人で行っても温かく迎えてくれる空間があるというのはいいものです。そういう人の温かさがある場所に、ウイスキーボトルバーがなれたらいいと思います。

コストが抑えられれば低価格でサービスできる

   ウイスキーを製造販売する会社としては、ウイスキーを召し上がるお客様とともに、お店を経営する方の視点も重要です。バブル全盛期から20年以上が経ち、ボトルキープを主とするお店の経営者の代替わりも出ています。サントリーとして「ウイスキーボトルバー」に参入していただきやすいオーナー様として、主に3つのパターンを想定しています。

   1つめは「居酒屋」のような、いわゆる食業態のオーナー様です。食業態は単価が比較的低く、いかに集客数、オーダー数、回転率をあげるかが勝負ですが、ウイスキーボトルバーですとセット料金にて単価が確保できるので、このパッケージを提案すると、とても喜ばれることがあります。

   元々、集客数を上げるためにどうすればいいかということを常に考えていらっしゃいますし、2軒目を開いて1軒目から少しでもお客様を送ることができれば、お客様を囲い込むことができます。ウイスキーボトルバーは食事を出すこともできるので、食業態のノウハウも活かせます。

   2つめは「バー業界」の方。お酒の知識と高いスキルを持ち、マナーなどにも長けているオーナー様がスタッフに技術を伝授することで、「女性」という新しい集客のきっかけのあるお店ができます。

   3つめは「クラブ、ラウンジ業界」の方。30代の若いママやホステスが独立し、これからの時代のお店のあり方を考えたときに、このようなコンセプトが合うようです。高品質、低価格、好環境を維持しながら、接客のプロのスキルを活かしてもらえます。

   大がかりな厨房施設がいらないので初期コストが抑えられますし、スタッフの多くがアルバイトのため人件費を抑えられるので運営コストも比較的かかりません。結果的に、お客様に低価格でサービスを提供でき、数多く足を運んでもらい易くなります。

   サントリーとしては、女性スタッフを募集するノウハウや、お酒の作り方・マナーを教育するノウハウなどを提供しながら、バックボーンの異なるオーナー様がこの業態に取り組んでもらうサポートをさせていただいています。

「ボトルキープの文化」を復活させたい

   ウイスキーメーカーとして最も大切にしているのは「高品質」。お客様にウイスキーをおいしく飲んでいただくことです。

   とはいえ、お客様にお酒を直接出すことは、われわれ自身にはできません。各店舗のオープニングスタッフには当社社員が出向いて研修を行うなど、お客様においしいと思ってもらえる品質を確保できるノウハウをお店に伝えていきます。

   もうひとつ大事なのは、「低価格」と「明朗会計」という要素です。お客様がいくら支払わなければならないのか分かるシステムにすることが、若い人たちに安心してお酒を飲んでもらうためには欠かせません。

   ウイスキーボトルバーには必ずメニューを置き、ボトルキープをしていただければ次回以降はセット料金で自分のボトルを好きなように楽しんでいただけます。

   日本のウイスキーの評価が海外でも高まる中、ブレンデッドの「」や、シングルモルトの「山崎」「白州」など多彩なウイスキーの世界を、より多くの人に楽しんでいただきたい。そしてボトルキープの格好良さを伝え、この文化をもう一度復活させていきたいと思います。

   ウイスキー作りには、長い時間が掛かります。例えば「響12年」を今おいしく飲めるのは、12年以上前の決断と挑戦が生きているからといえます。ハイボールに続き、より多くのウイスキーファンを増やす為にもウイスキーボトルバーの全国展開に挑戦し続けます。