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樹木医の「一言」が除菌剤のイノベーションに 「マスコミ登場の確率」高める法

   経営の神様とも称されるドラッカー博士は、次のように述べている。

「企業の目的は、顧客の創造である。したがって、企業は2つの、そして2つだけの基本的な機能を持つ。それがマーケティングとイノベーションである」。

   そうであるなら、マーケティングとイノベーションは、企業にとって広報の最大のチャンスと言える。マスコミは、社会性、読者ニーズ、メディア特性の3つの価値を判断材料として掲載の可否や、記事の大小を決めている。つまり、企業が生み出したマーケティングとイノベーションは社会的にどんな価値があるか、話題性はあるか、どのメディアだったら取り上げてくれるかを考えれば、ニュース発掘ができる。

「渋柿パワー」製品誕生のきっかけ

   しかし、そうはいっても、中堅・中小企業が社会性や話題性を持つニュースを提供することは難しいという人もいる。そんな方には、次の事例を参考にしてほしい。

   アルコール系除菌剤の製造販売を行うアルタン(東京都大田区、鈴木賢一社長)は、2007年11月に広島大学と共同で、ノロウイルスを99%以上消滅させるエタノール製剤「アルタンノロエース」を開発・発表した。原料に渋柿を使った話題性もあって、発表に先立つ同年10月に日本経済新聞が記事を掲載したほか、2010年9月と2012年10月にはNHK総合テレビが抗ノロウイルス「渋柿パワー」製品として紹介、さらに2013年にはテレビ朝日でも放送された。

   同社の鈴木社長によると、開発のきっかけは、厚生労働省が2004年に「アルコール系除菌剤はノロウイルスに効かない」と公表したことだ。「食中毒の最大の原因はノロウイルスで、件数で3分の1、患者数では約半数にのぼる」とされ、その対策に注目が集まっていた。一方で同社の主力商品はアルコール系除菌剤。危機感を抱いた同社は、ノロウイルスに効果があると実証される製剤づくりを目指したものの、中小企業の設備では実証ができない。

   「ノロウイルスによる食中毒は二枚貝から発生すると言われている。生ガキを食べると食中毒になることがある。カキの産地である広島の大学なら、積み重ねてきた研究もお持ちだろう」(鈴木社長)と考えて、広島大学と共同研究を始めた。幸運にも恵まれた。アルタンの顧問が樹木医をしており、木の枝を切った後に、ウイルスや細菌が入って腐らすのを防ぐため、柿渋を塗る話をしてくれた。そこから開発は猛スピードで進み、1年余りで商品化に漕ぎ着けた。

産学連携の成果という付加価値も

   アルタンと広島大学は、柿渋を有効成分とする抗ノロウイルス剤の発明で、日本をはじめ主要国に特許を出願した。アルタンは、中国地域産学官連携コラボレーションセンター(2008年度)や、りそな中小企業振興財団・日刊工業新聞社(13年)などから表彰を受けた。

   このイノベーション事例は、ノロウイルスに効くという社会性、柿渋を有効成分とする話題性、それに広島大学との産学連携の成果という付加価値があり、マスコミが目をつけた。ところで、多くの企業で使われている「アルタンノロエース」だが、肝心の病院や福祉施設での活用は遅れている。有効成分の詳細な解析ができていないため、医薬品としての認可が取れておらず、保険の点数制度の壁に阻まれているのだという。(管野吉信)