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都知事選「若者の右傾化」警戒論をわらう

   先日行われた都知事選は、大方の予想通り与党推薦の舛添さんの圧勝に終わったものの、各社の行った出口調査で20代における田母神さん人気が浮き彫りとなり、一部で話題となった。で、さっそくリベラルな朝日紙面でリベラルの社民党党首が「若者の右傾化を心配して見せる」という伝統芸能が繰り広げられている。


   ただ、出口調査というのは実際に投票に行った人が対象なので、投票率自体低い若者全体の中で、必ずしも田母神支持が伸びているわけではない。たとえば産経、毎日、東京新聞等の共同出口調査では20代の24%が田母神氏に投票しているが、仮に前回都知事選21~24歳(推定)投票率43.59%をかけると、実際には10%程度に過ぎず、40代で同様の計算をした場合よりむしろ少ない。というわけで「若者はなぜ右傾化するのか」という表題に対しては、「別に右傾化してないよ」というのが筆者の回答である。

原因は、むしろ左翼自身にある


   とはいえ、自民党や共産党といった組織票があるわけでもない完全無所属で60万票というのは、確かにそれなりに健闘したとは言えると思う。そういう意味では、幅広い世代で"右傾化"していると言えなくもないから、社民党党首が心配するのもわからないではない。ただ、その原因は、むしろ左翼自身にあるというのが筆者の意見だ。


   今回の選挙で、左翼陣営は宇都宮、細川の2陣営が参戦したが、どちらも"即時・脱原発"を掲げて選挙戦を戦っている。全原発が停止しているおかげで日本の貿易赤字が過去最大の11兆4745億円になり、しかも一時的ではなく恒久的に全ての原発を停止させるとすれば電気代は少なくとも2倍前後に値上げされるのは確実なのだが、もちろん両陣営はこういった事実には言及しない。


   「いま何の問題も無いのだから、なんとかなるだろう」という小泉さんばりの悪意の無い無邪気さで、原発依存からの即時脱却を主張し続けている。だから、筆者は彼らのことを「空想的脱原発派」と呼んでいる。万が一国政で多数派を占めても、電気代が2倍になると支持者にばれた時点で空中分解するはずである。


   ついでに言うと、宇都宮陣営は「ブラック企業を規制します」とか「最低時給を1000円にします」なんていう具合に空想の上に空想を上塗りしている。いつも言っているように、ブラック企業は終身雇用制度の副産物であり、規制でどうこうなるものではない。だいたい、そんなもので解決できるなら、過去40年にわたって"Karoshi"が世界中に広がるまで放置してきた我々日本人は「なにやってたの?」って話になる。

既存左派は、自分達の政策をゼロベースで見直すくらいのことは…


   こんな左翼陣営のていたらくをみれば、別にネトウヨでなくたって保守に投票したくなるのが人情だろうし、そのうちの1割くらいが田母神陣営に流れたって別に不思議でもなんでもない。一応言っておくと、田母神さんの歴史認識はおかしいし、取り巻きにいっちゃってる人が多いのも間違いないが、それ以外の政策は(少なくとも宇都宮、細川候補よりは)まともである。正直言って、変な取り巻きの応援演説を一切排除していたら、もうちょっと票が取れたんじゃないかとさえ筆者は考えている。


   というわけで、若者や社会が右傾化したのではなく、左翼が形骸化したというのが正しいだろう。既存左派には、他人の右傾化を心配する暇があったら、自分達の政策をゼロベースで見直すくらいのことはしろと言いたい。


   今から20年後、日本中に新たな原発がじゃんじゃん新設されていたり、戦前のような軍国主義が復活していたりするなんてことはありえないが、今のままなら既存の左派政党の絶滅は十分ありえるというのが筆者の意見だ。(城繁幸)