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入った会社がブラック企業だった… 泣き寝入りしない「1プラス9」の対処法

   さて、4月である。新年度を迎え、新たな環境で働き始めるという方も多いことだろう。

   入社を決めた段階では、その時点での第一志望を選んだはずであるが、やはりイメージと実態は違う、ということは多い。メールや対面での相談依頼が急に増えるのもこの時期ならではだ。

「OJTがあると聞いていたが、いきなり営業してこいと言われた…」
「入社してからずっと、ほぼ終電まで働いているのに残業代がつかない…」
「到底達成できないレベルのノルマを設定され、上司や先輩からのフォローもない…」

「辞める自由」があることを忘れないで

「ブラック」への階段?
「ブラック」への階段?

   とまあ、これくらいの展開はよくあること(本来、あってはならないことだが…)。ひどい場合は、最初から厳しくブラックな洗礼を浴びることもある。

「遅刻や欠勤は罰金、経費も自腹」
「業績が振るわないと、上司から毎日のように『お前の代わりはいくらでもいる』『辞めたければ辞めたら?どこも雇ってくれないだろうけどな』などとイヤミを言われる」
「ちょっとしたミスで、上司席の横に立たされたまま2時間説教を受けた」

   コンプライアンス意識のカケラもない、どうしようもないブラックぶりである。ではこういう目に遭ってしまった場合、どういう対処をすべきなのだろうか?

(※注:以下から述べていく対処法は、あくまで「ブラック企業被害者限定」である。「上司や先輩が上から目線だ」「遅刻すると怒られる」「目標を達成できないと厳しくツメられる」くらいのことは「普通レベル」なので、それくらいで辞めたら逆に「当たり前レベルに達していない」という評価になってしまう…)


   まず、ブラック企業で被害に遭われている方は「辞める自由」があることを忘れないで頂きたい。

   我々は「若いうちの苦労は買ってでもしろ」「石の上にも三年」「努力は報われる」といった価値観を大切にするよう育てられてきたが、ブラック企業はそんな考えを都合よく利用し、理不尽な業務量を強要してくるものだ。

   ブラック企業をなかなか辞められない人の共通点は「責任感が強すぎる」ことである。

   そんな人ほど「自分が頑張らなければ…」と一人で抱え込んでしまい、過労状態になってしまうという悪循環になりがちである。

頼りにならない「社内相談窓口」

   しかし、今の環境がブラックであればあるほど、あなたがより良い条件で転職できる可能性は高くなるのだ。これは間違いないと断言しよう。

・ブラック企業は安い給料で働かせようとするから、転職先の給料は多少なりとも上がるだろう
・ブラック企業はハードワークを強いるから、転職先での勤務時間は多少なりとも少なくなるだろう
・ブラック企業はパワハラが日常茶飯事だから、転職先での労働環境や人間関係は多少なりとも良くなるだろう
・ブラック企業は個人のキャリアプランなど考慮せずに使い潰すから、転職先であなたは「労働市場で通用するスキル」を多少なりとも得られるだろう

   責任感が強いあなたは「自分がここで辞めてしまったら、周囲の人に迷惑がかかる…」などと、最後まで責任感をもって配慮するかもしれないが、あなたという人間に対してロクに配慮しない会社に対して義理立てなどする必要は皆無である。

   本当に報われないと感じたら、早めに辞める勇気も必要だ。なにしろ、その環境下で働くのは他でもない自分自身なのだから。


   では、様々な事情によって、会社に残らざるを得ない場合はどうしたらいいのだろう。

   ブラックな仕打ちに遭ってしまった本人が「訴えてやる!」と激昂したり、被害者に対して「そんなにひどいなら、訴えれば?」などとアドバイスしたりする構図はよく目にするが、それらはあくまで物語の中のハナシであることがほとんどだ。

   じっくり考えてみれば、裁判にはお金も時間もかかるため、あまり現実的ではない。かといって、黙って泣き寝入りするというのも腹に据えかねるだろう。

   最近は大手企業を中心に、労働環境に関する「社内相談窓口」を設置するところも増えてきているが、残念ながらそこに頼り切れない実情もみてとれる。

「結局、得をするのはブラック企業」を許さない

   2012年末に厚生労働省がおこなった「社内パワハラ」についての調査結果が手元にあるのだが、「7割以上の企業が社内外に相談窓口を設置していた」にも関わらず、パワハラを受けた人の対応で最も多かったのは「何もしなかった」の46.7%。窓口を設けたところで、プライバシーや人事評価への影響を恐れて相談しないケースは多いのだ。

(実際、コンプライアンスを推進しているはずの大手光学機器メーカーO社や大手製薬メーカーN社などで、内部告発をした社員が不当な扱いを受けた事件が発覚している)

   体感値としては、ブラック企業から何かしらの被害に遭っても、「泣き寝入り」か「黙ってその会社を去る」という形で、結局会社に対して「何もしない」人が8割くらいという印象である。

   手続き的に時間や手間がかかったり、法的対処をすればお金がかかったりもするので、面倒に感じてしまうのも致し方ないのだが、我慢や泣き寝入りがブラック企業を助長し、新たな犠牲者を生むことにも繋がりかねない。「結局、得をするのはブラック企業だけ」というのは絶対に容赦できない問題である。

   それでは、あなたの会社が「ブラック企業だ!」と感じたとき(感じる前も含めて)にやっておきたいことを段階別にアドバイスしていこう。


(1)普段から同僚同士で助け合い、困ったときに味方になってくれる人間を増やしておく
(2)「労働組合」に入り、会社と対等に主張できるようにする

⇒誰にも相談できず、一人で抱え込んでしまうことが問題解決を遅らせる。まずは「自由にモノを言える関係性」を創っておくことが重要だ。自社内に組合がなくても、正社員でなくても、ひとりでも入れる組合が存在している(たとえば、首都圏青年ユニオン)。


(3)「労働法」を知っておく

⇒何が違法なのかが分かれば、問題意識を持ちやすくなる(参考:厚生労働省が分かりやすくまとめた資料リンク)。


(4)とにかく「記録」と「証拠」をとっておく

⇒タイムカードや違法な業務指示のメール、就業規則などはコピーをとっておき、暴言やパワハラ発言はICレコーダーに記録。1日のスケジュールをメモしておくのもいい。これらは全部、法的対処をする際の資料になる。

アナリストと情報共有を

(5)「労働基準監督署」に告発する

⇒いわゆる「労基署に駆けこむ」というやつだ。ただし、労基署はあくまで「労働基準法に則って事業所を取り締まること」が仕事で、労働者のお悩み相談所ではない。賃金未払いなど、確実な証拠が揃っている悪事が優先されるので、その前提で利用したい。


(6)都道府県の労働局に「あっせん」を依頼する

⇒労働法の専門家であるあっせん委員が、労使双方から個別に話を聞いてあっせん案を作成し、それを双方が受け入れれば和解が成立するという公的制度である。


(7)「労働審判」をおこなう

⇒2006年に新しくできた、「あっせん」と「裁判」の中間的な制度。労働問題の専門家である労働審判員が双方の言い分を聴いて審判を行い、基本的に調停、和解による解決を目指すものです。「原則として3回以内で結審」「約2か月半で結果が出る」「結果には強制力がある」という点で、ブラック企業対策の切り札になると注目されている(参考記事「労働基準監督署にうまく~(略)」)。


(8)「裁判」に訴える

⇒最終手段だが、弁護士費用を合わせると数十万円、そして1年以上の裁判期間がかかる覚悟が必要である。


(9)「ブラック企業アナリスト」に情報共有し、世論を動かす

⇒オチのようだが、意外とそうでもない。「正攻法では解決困難な問題を、世論を喚起することで解決に導く」のは私の仕事のひとつだ。たとえばこの「野村総研、強制わいせつ裁判で敗訴?被害者女性への組織ぐるみの脅迫行為が認定」という事件は、私が数年越しで関わった案件である。

   タイミング的には、(4)あたりの段階でお声掛け頂ければお力になれるはずだ。


   最後に、採用側の人事責任者、採用担当者にもお願いである。思いがけずブラック企業に入ってしまう「不幸なミスマッチ」に遭ってしまった人が離職後に応募してきた場合、覚悟を評価して、寛大な気持ちで採用して頂きたい。(新田龍)