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オバマが来た!見た!聞いた! 大学での「大ウケ」スピーチに学ぶ3つのコツ

   (2014年)4月2日、Ann Arborに「オバマの春一番」が吹き荒れました。3月31日にアナウンスされて4月1日の早朝からチケット配布。1日の午前1時から、自宅から徒歩2分の建物の前で野宿しながら夜を明かし、35歳の体に鞭打って1000枚限定のチケットをゲット(それでも717番目!)、4月2日の演説を聴きに行ったのでした。

   2年前に来たときには3000人規模の会場だったそうですが、今回は何と体育館。ノージャケットで、Yシャツの袖をめくり上げて「汗をかいて熱く語る」スタイルは、今回のトピックでありオバマ大統領の目玉政策のひとつでもある「(州によって異なるが)時給7~8ドル台の最低賃金を10.10ドルにアップする」という内容に完璧にマッチしていました。

「つかみ」から熱狂の渦!

オバマ大統領が街にやって来た!
オバマ大統領が街にやって来た!

   何ともつかみがうまかった。オバマ大統領お気に入りのZingerman'sというサンドイッチ屋がAnn Arborにあるのですが、「今日私はZingerman'sに行ってきた。サンドイッチが美味しいのはもちろんだが、それ以上に、Zingerman'sが従業員を大切にしていることを知っているからだ!」と最低賃金上昇という話題への最高のブリッジとなるエピソードを披露。Zingerman'sは従業員教育で有名でLeadershipに関する本を何冊か出していて、この話でまず大歓声。さらに、先日8強で敗退してしまったとはいえ強豪復活を強く印象づけたバスケ選手たちを会場に招いて称賛。ここでまた大歓声。

   で、本題の最低賃金向上。「10.10ドル、つまりTen Tenだ、覚えやすいだろ?」と言っていましたが(笑)、日本だったら「いきなり上げ過ぎ!」「財源どうするの?」「また増税?」と批判を浴びそうなところ。実際に米小売業界は「最低賃金が上がったら雇用を縮小する」と反対している様子。

   しかし彼は屈しない。「Opportunity for All」をキーメッセージにして「最低賃金が上がればもっとたくさんの人が教育を受けられるようになる、大学にだって通えるようになる」と強く訴えかけてまた学生たちは大盛り上がり。

   日本から来た部外者として見ると「いやいや学生たちよ、最低賃金上げたら君たちの親や将来の君たちは増税になるのよ」「最低賃金上げるくらいじゃバカ高い大学の授業料払えないんじゃ」と思ったりするわけですが、710万人登録を達成したオバマケアに続いて、自分の正しいと思う政策を、批判や粗探しを承知で体を張って主張し実行できるリーダーシップがあるからこそ人気があるのだと実感することができました。

MBA受験生が熱狂したスピーチとは?

   さて、私はといえば、MBAに来たころはミーティングやクラスで発言するのがやっとで、気のきいたスピーチをすることなどとても想像できなかったのですが、最近では自分でも驚くほど笑いをドッカンドッカン取れるようになってきました。以下、世界中からミシガン大学にビジットしてくるMBA受験生たちに行った私のスピーチです。毎回10人~20人の在校生が自己紹介とミシガン大学MBAの良さを語ったのですが、他の学生を圧倒する歓声に、入学審査官から「ミシガン大学MBAに就職して、一緒に学生をリクルーティングしないか」と誘われてしまいました(笑)。

   Hi! I'm Ken from Tokyo, Japan. I worked at a Japanese advertising agency. Almost all the students here are discussing their brilliant career changes after graduation, but I'm FORTUNATELY sponsored by the agency, so UNFORTUNATELY I need to go back to the same company. (ここで笑い&拍手が起きる)

   I'd like to let you know that Ross is much more DIVERSE than I had expected before coming to Ross. (キーメッセージ) For example, my MAP project is for a famous delivery pizza chain in US, and the team consists of 6 people with 7 nationalities: American, Mexican, Greek, Ukrainian, Belgian Lebanese, and Japanese. First 2 weeks it was CHAOS. If one member casted his idea, the other guy SHOT DOWN the idea from a different point of view. (ここで再び笑い&拍手)

   In a field research trip, we gathered at a hotel room and talked over night to understand the difference of our cultural and business backgrounds. After this, we became a well-organized team and the project made a success. Our project is featured in MAP brochure! I learned how to manage a globally DIVERSIFIED team by this experience. (キーメッセージ) It's crucial for us to survive in the global business world.

   Please come back to Ann Arbor as an incoming student. This is a really HEARTWARMING community, though the weather is a little bit COLD! (最後の笑い&拍手)

スピーチの3つのコツとは?

   私ごときのスピーチと並列するのも大変おこがましいのですが(笑)、オバマ大統領のスピーチと上記スピーチを比較して参考になりそうな点は何でしょう?

   1: 準備する、練習する

   第10回で書いたのですが、純ドメ日本人にとっては、ある程度ネタを用意して、同じネタを何回も話してブラッシュアップしていくことでようやく英語コミュニケーションが成り立つレベル。日本語ですら「実は風邪を引いています」と言って場を凍りつかせてしまうこともあるくらいですから、英語ではなおさら準備が必要です。

   2: 大義がある、キーメッセージがある

   オバマのスピーチで言えば、「Opportunity for All」が大義でありキーメッセージ。ただ「財源がないので増税します」「最低賃金が他国より低いので上げます」ではなく「すべての国民に平等にチャンスを与えるためには、最低賃金の向上が必要不可欠である」と語ることで納得度を上げています。私の場合は「ミシガン大学MBAが多様性に富んでいるからこそ、グローバルビジネスに必要なチームワークスキルを身につけることができる」ということをキーメッセージにして企業コンサルティングプロジェクトの事例を語っています。

   3: 笑えるポイント、盛り上がるポイントが3つ以上ある

   アメリカ人の優れたスピーチを聴いていると「盛り上がるフレーズをたたみかけるようにスピーチに入れ込むことで聴衆の興味を引く」ことに長けていると感じます。オバマの場合は「サンドイッチ屋」「バスケットボール選手」「Ten Ten」あたりが熱狂ポイントになっていました。私の例では、他の学生が「卒業後はコンサルに」「投資銀行に」と華々しいキャリアを語る中、唯一会社派遣だったので「幸運にもスポンサーがいるので、不運にも元の会社に戻らなければならないのだ」と最初の盛り上がりポイントをつくりました(あ、もちろん、本当に不運だと思っているのではありませんよ!)。ふたつめは「6人7国籍で最初は本当にカオス」。そして3つめは「ちょっと気候は寒いけどみんな心は温かい」(実際には雪がガンガン降っている)。「ちょっと笑えるエピソードを入れる」くらいにとどまらず「大げさなくらいスピーチにクライマックスをつくる」勢いが重要です。

   いかがでしょうか?もし万が一英語でスピーチをする機会に出会ってしまったら、上記の3つのコツを思い出してください。(室健)