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アメリカでの「和食ブランディング戦略」 日本人以外経営の「エセ和食」も活用できる?

   アメリカの食事情についてどう思いますか?とにかくデカイ、味つけは大ざっぱ、という感じでしょうか。確かに皆さんのイメージ通りのジャンクフード、例えばとんでもないサイズのハンバーガーや噛み切れないステーキ、さらにはお酒を飲んだ後の客を狙うホットドッグ屋台やピザ屋もたくさんあります。

   一方で、ちゃんとした店のTボーンステーキやロブスターなどは常識を覆す美味しさだったりします。さらに肉も野菜も安い!一番高いDry Agedのリブアイステーキをスーパーで買っても1ポンド(=約450グラム)で15ドル(=約1500円)。日本的に100グラム換算すると約333円で脂の乗った柔らかい牛肉が手に入ってしまうのです。ということで、きちんと店を選べば、そしてちょっとお金を掛ければ(それでも大抵東京より安い)アメリカでも美味しい食事が楽しめます。

「寿司の天ぷら」がメニューに!?

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   では、アメリカに住んでいると恋しくなる「和食」はどうでしょうか。JETROの調査によれば、アメリカの日本食レストランの数は2005年の9182店から2010年の1万4129店へと53%も増加したそうです。日本でも報じられている通り、「和食ブーム」が到来していると言えるでしょう。

   こうした日本食レストランに行って我々在米邦人は満足できるのでしょうか?悲しいことに、答えは「大体No!」です。同じくJETROの調査で、日本食レストランの経営者のうち、約8割が日本人以外による経営と言われています。その多くがアジア系、とりわけ中華系・韓国系だと言われますが、店に入れば分かります。「エセ和食レストラン」では、メニューを見ると「キムチ」や「ビビンバ」が載っていたり、お通しとして出汁のきいていない味噌汁が出てきたり、ラーメンも全くもって出汁がきいてなかったり…。寿司の盛り合わせを頼んだら半分以上が「カリフォルニア・ロール」だったり、「寿司の天ぷら」が出てきたり…。特に「出汁がきいていない」はアメリカの「エセ和食レストラン」で日本人が一番に感じることです。

   とはいえ、日本のブランドのビールや日本酒が置いてあったりして、日本人以外から見たら判別不可能。そして、「エセ和食レストラン」は意外なほど人気。

「エセ和食」改め「フュージョン和食」を日本食体験の入口に

   果たして、「エセ和食レストラン」は好ましくない存在なのでしょうか?個人的に足繁く通いたくはなりませんが、「アメリカにおける日本食ブーム」にこうした「エセ和食レストラン」が貢献していることは間違いないと思います。もちろん救いようがないほど和食からかけ離れた店もありますが、成功しているレストランは「和食=ヘルシーでスタイリッシュ」というイメージを盛り付けや内装を含めてうまく打ち出して、プレミアムな値段を正当化していると感じます。「日本人の舌」は100%は満足させられないけれど、少なくともそれ以外の国の人たちに「日本食を食べている」という満足感は提供できている。さらに言えばアメリカ人の舌がすでにこうした店の味に慣れてしまっている。

   そもそも料理のローカライズは普通に起きることです。例えば全米に展開する中華料理のファミレスチェーンは中国人も首を傾げる味。北米の中華料理屋で食後に出される「フォーチュンクッキー(おみくじの入ったクッキー)」も、中国人からしたら謎の習慣です。さらに言えば最近は日本から「逆輸出」までされているラーメンは元々中国のものをローカライズしているし、インドからのカレーライスだって同じ。2006年ごろ「寿司ポリス」が批判を浴びたのは、こうした文化的背景を無視したからでしょう。

   そして、アメリカ人も「オーセンティック和食」が理解できないかと言うとそうではない。オバマ大統領が安倍首相と訪れた「すきやばし次郎」は2012年に「Jiro Dreams of Sushi」という映画がアメリカで公開されたこともあり、最も有名な日本のレストランのひとつですし、日本と遜色ないラーメンを食べようとしたら最低10ドル(=約1000円)、店によってはトッピングやチップを加えたら20ドル(=約2000円)超えなんていうこともありますが、行列ができています。

   日本食体験の「入り口」として「エセ和食」があって、その先に日本発の「オーセンティック和食」や日本での「和食ツアー」がある。共通した提供価値は「ヘルシーでスタイリッシュ」。そんなブランディング戦略があってもいいのではないでしょうか。あっ、「エセ和食」という言い方がまず良くないですね。「フュージョン和食」「和食リスペクトレストラン」に変えてもいいかも知れないですね。(室健)