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イエスマン店長が現場をブラック化する 面接でそんな人材を見抜く「質問」

   10店舗弱のローカル飲食チェーンB社の総務部長Fさんが、景気浮揚による人手不足の悩みを聞かせてくれたのが今年初めの事でした。ここに来て牛丼「すき家」のゼンショーはじめ、外食業界の一層深刻な人手不足報道が流されているので、その後どうしただろうかと思い、尋ねてみることにしました。

「確かに厳しい状況が続いてはいますが、おかげさまでうちは打つ手がよく、なんとか現状、人員確保がはかれています」

   聞けば、一時期は窮地を抜け出すための採用方針で社長と意見に食い違いが生じたものの、最終的に社長の方針に沿ってすすめることで人員確保はなんとか落ち着いたのだとか。

勤務終了の深夜0時にミーティング。あなたはどう対応しますか?

こ、こんな時間からミーティングですか?
こ、こんな時間からミーティングですか?

   3か月前は、とにかく人がどんどん辞めていく、新しいスタッフの確保はままならない、そんな状況。スタッフの人員不足が続けば、今度はそのあおりで仕事が急速にハードになった店長クラスが続々離職。Fさんはとにかくまずは、店長候補の人材を業界経験者なら多少のことは目をつぶってでもほぼ無条件で採用し、アタマ数を確保して店を回そうとしていたのですが、社長からはその考え方に待ったがかかりました。

   「こういう時こそ当社の運営方針に忠実に従い、慎重にならなくてはダメだ」という社長は、店長候補者との面接である条件を付けたのだそうです。その条件とは、飲食経験があろうとなかろうと、以下の質問をして会社の考えに合った答えをした者だけを採用せよという指示でした。

   質問は、「あなたが会社から、勤務終了時間の深夜0時にミーティング開催を命じられました。あなたはどう対応しますか」というもの。Fさんはこれを聞いて「質問の中にある指示に対して、従順に従い長時間労働にも使い減りのしないイエスマンを採れと言うことですね」と返すと、社長の一喝が飛んできました。

無理な要求にしっかりとノーと言える者こそが…

「バカモン!君は現場の焦りに毒されて大切なことを見失っているぞ。総務部長がそんなことでどうする!無理な要求にしっかりとノーと言える者こそが、うちの店長候補としてふさわしい人材じゃないのか。盲目的に無理な指示を受け入れる者は、自分が人の上に立った時に、下に対して同じような無理強いを平気ですることになる。結果的にタダでさえ過酷な飲食の就労現場で、経営の考えとかけ離れたブラックな環境はこういうスタッフによって作られていくんだよ」

   Fさんは、社長の話に半ば納得のいかない思いで、「おっしゃることは分かりますが、ただ今はそんな人材の質にこだわっていたら、せっかく応募してくれた人材も採り逃してしまい、店が閉店に追い込まれるのではないかと思いますが」と反論します。社長は一言、「いいから言ったとおりにやれ。これがうちの方針だ。それで思う人材が採れなくて店が回らないのなら、休業もやむなしだ」と。

   Fさんは、今ひとつ納得がいかない思いながら社長のやり方に従いました。採用はFさんの予想通り苦戦します。店長候補の穴が埋まるまでは、本部の管理職が現場に入ってつなぎ、なんとかかんとか休業は免れながら店長候補の人材確保に努めました。結果、時間はかかりながらも社長の指示に従った採用方針を守り抜いたのでした。

「目先の利益を優先しない」

   結果は……。「社長の打つ手はさすがに確かだったのですよ」とFさん。店長候補人材にしっかりと会社の考え方が理解できる人材を配したことで、アルバイト人材も長続きするようになったのだと。

   「今思えば年初の人材減の悪循環は、管理者にあったようです。当時人手不足の中で辞めていった管理者たちは、無理な状況を本社に伝えることなく、スタッフに無理強いをしてきたことで急激な人材流失になり、結果自分の首をしめていたのです。新しい店長たちは状況を的確に本社に伝えて本社の協力を仰ぎ、スタッフに無理強いをしないことを原則としてアルバイトの離職を防ぐことにつながりました」

   この件に関してFさんは社長にこう言われたそうです。

「目先の利益を優先することは悪を生むことになり、周囲の評判を含めて結局会社をダメにすることにつながる。苦しい時ほどこの原則を守らなくてはいけないんだよ。今回の件もまったく同じだった。うちの会社は、どんな時も目先の利益を追わずに来たから今があるんだよ」

   「目先の利益を優先しない」。企業のブラック化回避のヒントは、そんなところにもありそうだと思えた一件でした。(大関暁夫)