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役職員を信頼すれども放任せず 実は恐ろしい「無届けサイドビジネス」

「繊維メーカーA社の工場で購買業務を担当する社員が、自分が代表者を務める会社に製品の梱包材を発注するよう仕向け、架空の納品書、検収記録、請求書を偽造。仕入れ代金を詐取した」
「イタリアの有名婦人服ブランドの日本子会社B社(すでに倒産)の元社長が、自分が経営する衣料品輸入販売会社にB社の資金を不正に融資した容疑で逮捕された。融資金は回収不能となり、B社に9億円近い損害を与えたとされる」
「上場企業の子会社でクラウドサービスを提供するC社の前社長が、複数の取引先に架空の請求書を出させて、外注費の支払いを偽装。約1億5000万円の所得隠しをするとともに、キックバックを受領していた疑いが浮上した。東京国税局はC社と前社長を脱税容疑で告発した」

   これらは、ここ1か月で報道された企業不正である。3つの事件には、不正リスク管理の教訓となる共通点が見て取れる。

子会社の社長が自ら不正

サイドビジネスの実態とは…
サイドビジネスの実態とは…

   まず、3件とも取引先への支払プロセスを悪用している点だ。取引先に請求書を発行させたり、自ら偽造したりして正当な取引を装い、まんまと会社に資金を支払わせるのである。表向きは書類が整っているため、現金や預金のあからさまな着服よりも見つかりにくい。

   次に、B社、C社の事件では、子会社の社長が自ら不正を行っている。絶大な権限をもつ経営トップの不正に対しては、内部統制も効き目がなくなってしまうし、子会社に対しては親会社の目も行き届きにくい。海外の子会社となればなおさらである。

   また、A社、B社では、役職員がサイドビジネスとして経営する会社が不正の受け皿として利用されたという共通点がある。就業規則において役職員の副業を禁止している会社も多いと思うが、一人ひとりの状況を細かくチェックするのは難しいだろう。上記の事件でも、会社は全く気づいていなかったのではないだろうか。

   3つの事件を読んで「まさか、うちの会社に限って」と思ってはいけない。どんな会社にも外注先はあるし、社員が会社に内緒でサイドビジネスをやっていないとは言い切れない。「うちは大丈夫か?」という視点で、次のようなポイントを押さえることをお勧めする。

「社長銘柄」新規取引先こそ、眉に唾つけて慎重審査を

1:支払プロセスには、ダブルチェックの仕組みがガッチリ組み込まれているか?

   A社では、発注担当者が自ら納入物を検収し、仕入先からの請求書も受け取って、自分で支払処理までできる状況になっていたと考えられる。不正事件の多くは、「ルール上はダブルチェックになっていたが、実際は担当者に任せきり」という状況で発生している。特に社長や「できる」社員に対してはチェックが甘くなりやすいので要注意だ。

2:子会社社長や地方の支店長などが、やりたい放題になっていないか?

   親会社とは業種が異なったり、地理的に遠かったりする拠点では「治外法権」が生じやすい。B社のように、現地で社長を雇う場合も要注意だ。親会社の経営陣や内部監査部門がリスクをしっかり見据えて、コミュニケーションを密にとりながら厳しい目を向ける必要がある。

3:新規の仕入先や外注先の審査基準は明確か?相手の実態を把握しているか?

   A社のように、担当者の言いなりで仕入先を決めてしまうのはもっての外。また、社長や支店長が取ってきた案件であっても、ルールどおりに厳正なチェックをしないと痛い目に遭いかねない。いや、「社長銘柄」の新規取引先こそ、眉に唾をつけて慎重に審査することが必要だろう。

4:役職員の副業に関する明確なルールはあるか?

   副業は原則禁止とし、例外的に認める場合は、必ず事前に申告させて、利益相反の問題が生じるリスクを吟味すべきである。無届の副業に対しては、懲戒処分を下すという規定を明確にしておくことも必要だろう。

   不正リスクの評価と対応は、転ばぬ先の杖である。役職員を信頼はするが決して放任はしない。そのさじ加減が大切だ。(甘粕潔)