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「わずか7週間でここまでやるか!」の授業もある 広告業界「中の人」から見たMBA

   2003年、私が広告会社に入社して配属されたのは企業及びその商品・サービスの広報を行う部署でした。最初の仕事は、ある芸能人が出演するCMのお披露目を合わせた商品発表会。マーケティングのコンセプトを考えて、商品・サービスが魅力的に見えるマス広告をつくって、それを補強するPRやプロモーションがあるというリレー方式のやり方です。

   それはそれで様々な有名人に会うことができ大変楽しかったのですが(笑)、こうした仕事のありようはわずか数年で激変しました。私が関わったプロジェクトだけでも「マーケティング活動のROIを測定したい」「マス広告を使わなくてもネットを中心に話題化するコンテンツをつくりたい」「商品開発・コンセプト策定に携わってほしい」「M&Aに関するコミュニケーション戦略を考えてほしい」「CSR活動を一緒に企画・実施したい」「クライシスマネジメントに協力してほしい」「モチベーションアップのための社内コミュニケーションを考えたい」「海外進出のマーケティング戦略を企画してほしい」など、従来の広告ビジネスからは想像がつかないほど高度化したと感じたものです。こうした「企業のコミュニケーションパートナー」としての仕事はとてもエキサイティングでした。

   MBAでの最大の学びは世界のどこでも、どんなアウェー環境でも、誰とでもビジネスができるリーダーシップ、チームワーク、コミュニケーション能力だと思いますが、今回は、広告業界の「中の人」として感じたMBAでの学びを紹介します。

MBAは即戦力マーケッターを育成しうるか?

Marketing Engineeringでの新商品の市場予測シミュレーション
Marketing Engineeringでの新商品の市場予測シミュレーション

   私自身は「日本の広告業界のグローバル展開」をテーマにしていたので、海外展開やM&Aについての「経営戦略」、そしてグローバル組織運営のための「組織論」を主に受講しており、マーケティングの選択授業は米大手金融機関の東南アジアでのソーシャルメディア戦略をコンサルティングした「International Marketing」と「Marketing Engineering」にとどめましたが、特に後者は広告業界の人間から見ても優れたマーケッター育成の場だと感じました。

   この授業は、膨大なデータを専用のソフトウェアを使って分析し、データに基づいたマーケティング戦略を毎回チームで立案・プレゼンしていく授業で、ミシガン大学MBAで最も人気がある授業のひとつとなっています。Segmentation、Targeting、Positioningはもちろん、新製品の市場規模予測、Conjoint Analysisを活用した新製品のスペック設計などを行ってクラスでプレゼンするのですが、「わずか7週間でここまでやるか!」と感心するほど、理論と実際のケースによるシミュレーションのバランスが取れたクラスでした。

アメリカの大学はブランディングの好事例

   また、冒頭にも書いたように、ブランディングやレピュテーション向上、海外マーケット展開まで企業の課題は拡大しています。MBAでは、こうした変化に対応し、クライアントと対峙するにしても私たちがマネジメントとして広告会社の経営に携わるにしても役立つ経営ナレッジを学ぶ機会が豊富にあると感じました。例えばBOP(Base of the Pyramid)関連の著述でも知られるKarnani教授の授業では、最新のBOP戦略のケースから、「『消費者としてのBOP』だけでなく『生産者としてのBOP』を巻き込まないとビジネスにならない」「新興国の生活者の収入拡大、生活水準向上に伴って以前は『価格は半分、価値も半分』の商品・サービスで勝負できたのが『価格は半分、価値は8割』というものを提供しないとうまく行かない」という目ウロコの市場環境の変化を学びました。

   さらに、アメリカの大学はブランディングの好事例のひとつではないかと思います。学費が高いということは、裏を返せば「Willingness to Pay(支払おうと思う金額)が高い」ということです。世界各地でのカンファレンス・リクルーティングイベントの開催やソーシャルメディア戦略、そして卒業生のネットワーキングにうまく投資しつつレピュテーション・ランキングの維持向上との好循環を生み出していると感じます。ミシガン大学MBAの1学年500人、さらには自分の上下を加えると計1500人にもなる経営人材のネットワークは私がキャリアで得た宝物の一つです。

   最後に、全くもって個人的感想ですが、私が付き合ってきた広告業界の人材は非常に優秀で、MBAの学生たちと比較してもリーダーシップ、チームワークという面で引けを取らないうえに、創造性ではずば抜けていると感じます。実際に海外へ羽ばたき、クリエイティビティで世界を驚かせるプランナーやクリエイターの友人も出てきました。英語を始めとするグローバルコミュニケーション能力さえあれば世界のどこでも通用する、と確信しています。「内弁慶」になることなく、世界を相手に仕掛けて行きましょう。がんばれ!日本の広告業界!(室健)