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「ブラック企業へ就職」のススメ こんなに「おいしい」ことが待っている

   「ブラック企業」というキーワードが広がりを見せた昨今、教育機関からの講演・登壇のご依頼が以前にも増して増加している実感がある。先般も某大学某学部で、3年生全員を対象とした正課キャリア講座に登壇する機会を得た。テーマは「ブラック企業と労働法」である。

   同大学に限らず、近年の就職活動において、就職課やキャリアセンター職員の皆さんのアタマを悩ませているのは、就活生の「ブラック企業忌避」というスタンスだ。

噂話を信じ込む学生も

深夜残業も何のその!?
深夜残業も何のその!?
「飲食とかITって、業界全部がブラックなんでしょ?」

と決めつけ、噂されている業界自体にそもそも関心さえ持とうとしない学生がいる。

「『●●』とか『○○○○』はブラックだって、友達の彼氏の知り合いのAちゃんが言ってた!」

と、自分自身は働いたこともないのに、噂話を真に受けて信じ込んでしまう学生がいる。

「ネットで検索したら『株式会社○○ ブラック』って予測変換が出たから、ブラックなんだよね!?」

と、情弱な判断をしてしまう学生もいる。ちなみにこういった「関連キーワードで『ブラック』が出てくる問題」については、仕組み上「単にそういう組み合わせで検索している人が多い」というだけの理由であり、その会社が本当にブラックかどうかを判断する基準にはなり得ないものだ。

   もちろん、就職先を決めるのは最終的には本人の価値観の問題であるから、「ブラックという噂があるだけでもイヤ!」という明確なポリシーをお持ちの方ならば致し方ないのだが、もしかしたらその噂は単なる噂でしかなく、ブラックと言われている会社はあなたにフィットしたところかもしれない。表面的な噂に惑わされて、そんな機会を見逃してしまうとすれば、本当にもったいないことである。

誰にとって「いい」会社なのか

   基準は、人それぞれ異なるものだ、たとえば「優良企業」というキーワードで会社選びをするにしても、「何をもっていいと考えるか?」によって、切り口も様々だ。かなり大雑把に3点に絞れば、つぎのような捉えかたができるだろうか。

1:顧客にとっていい会社(リーズナブル、365日・24時間営業など)
2:株主にとっていい会社(儲かっている、継続的な成長など)
3:従業員にとっていい会社(やりたい仕事ができる、給料が高いなど)

   「顧客にとっていい会社」は、ユーザーとして利用する分には有難い存在だ。たとえば全国チェーンの某牛丼店であれば、牛丼並盛をわずか250円で食することができる。24時間365日営業しており、迅速に提供もしてくれる。

   しかし、従業員目線で考えれば、少ない人数で大量のオーダーをさばかねばならず、夜は強盗に襲われる危険性だってあるし、アルバイトから正社員への登用も狭き門…ということで、なかなか大変な環境かもしれない。

   「株主にとっていい会社」は、投資家や、税金を納めてくれる国や自治体、そこに我が子を入社させたい親にとってはいい会社だ。強みを持った商材で業績は好調であり、儲かっている。借金も少なくて当面はつぶれる心配もなく、世間からも「いい会社」と呼ばれることだろう。

   しかしこれも従業員目線で考えると、厳しい面があるかもしれない。同業他社に比べて儲かっている会社は、それだけ目標値や納期、クオリティなどの面で従業員への要求水準が厳しいことが多く、同じ時間働くにしても、その時間中の仕事の密度は明らかに濃いはずだ。1日の勤務を終えるとヘトヘトな毎日…ということも考えられる。入社の際には覚悟が必要だろう。

「スキルをつけたい」「成長したい」といった希望に沿えるなら

   では、「社員にとっていい会社」はどうだろう。給与は高く、やりたい仕事ができ、ブランドがある大企業…。「人気企業ランキング」などの上位にランクインしている会社などが当てはまるかもしれないが、これもリスクがないわけではない。

   今の待遇がよければよいほど、会社倒産やリストラ、業績不振による給与カットなどの極限状況に陥ったときに、新たな状況に対応できにくくなってしまうものだ。実際、高収入でもお金がたまらない人は意外と多いものだが、いったん収入が増えてしまうと、それに合わせた生活スタイルに固定費が掛かってしまい、収入が減ってしまってもなかなか対応が難しくなるものである。

   また、大企業においては仕事が細分化する傾向がある。全体の一部業務を担うだけのキャリアであった場合、勤務中は特段ストレスもなく対応できるかもしれないが、会社に何かあって転職するときに「そのキャリアとスキルでは転職できません」と宣言されてしまうかもしれない。

   世の中には「人気企業」「優良企業」「働きやすい会社」など様々なランキングが存在するが、それも「何を基準に考えるか」によって、あなたにとっての価値や意味はまったく変わってきてしまう。

   「誰にとってもいい会社」は存在しない。あるのは「自分にとっていい会社」だけなのだ。 「何をもって『いい』と考えるのか?」というふうに、自分で自分の判断基準を分かっておくことが重要である。

   同じことは、「ブラック企業」にも当てはまる。

   世間では「ハードワーク」「低賃金」「プレッシャー」=ブラック企業、と捉えられる向きもあるようだが、それはいかにも短絡的すぎる。自分の価値観に合わない会社をブラック企業扱いしてしまっては、世の中全部の会社がブラックになってしまうではないか。

   確かに、プレッシャーが厳しいことが分かっていながら敢えて「キツい会社」を選ぶ人は少数派であろうが、彼らにとっては「価値観に合致した第一志望企業」なのだ。「スキルをつけたい」「成長したい」といった希望に沿えるなら、お互いハッピーではないか。

「仕事はキツいが、頑張った人は労働市場で『優秀』と評価されやすい」

   少し前のデータになるが、このようなランキングに名前が挙がっている会社が近しいかもしれない。

1位:リクルート
2位:Google
3位:P&G
4位:サイバーエージェント
5位:本田技研工業
6位:ファーストリテイリング
7位:三井物産
8位:カヤック
9位:楽天
10位:資生堂
11位:ダイキン工業
12位:日本IBM

   これは、「就活のプロ35人」(いちおう、私も入っている)が厳選した、2012年度版「市場価値が高まる優良企業」調査のランキング上位12企業を引用したものである(晋遊舎『優良企業辛口ランキング100』から)。

   「市場価値向上」「成長性」「収益性」「労働市場での評判」などを総合的に評価して点数化したもので、ざっくばらんな言い方をすれば、「仕事はキツいが、これらの会社で頑張った人は労働市場で『優秀』と評価されやすい」というイメージであろうか。

   お気づきのとおり、このランキング表の中には、「ブラック企業ランキング」などでよく名前を見かける会社も入っている。それらの会社は恐らく「ハードワーク」「ノルマや要求水準が厳しい」「残業が多い」といったイメージからランクインしているのであろうが、そういったことは何ら気にせず、「それでも成長したい」「スキルをつけたい」「稼ぎたい」といった人には向いている、ということがいえるわけだ。

   そういった価値観も、会社選びの基準として提示されるべきである。もしこれら企業への就職を目指したい人がいるなら、それが「自分の志向性や価値観に合った『キツさ』なのか?」というところまで検討してから応募することをお勧めしたい。

   仕事のモチベーションを「マッタリした働き方」とか「残業なし」あたりに感じている人にとってはこれらの会社はブラックかもしれないが、やりがいを「得られるスキル」「成長」「給料」などに感じている人にとっては「いい会社」であるといえよう。

何をもって「ブラック」だと言っているのか

   ブラック企業論議は多様な切り口から考えることが不可欠だ。いつも提言しているように、「ブラック企業」という言葉を使っている限り、本当の意味でのブラック企業問題は解決しない。なぜなら、先出の「いい会社」と同様、何をもって「ブラック」だと言っているのか、話し手の価値観によってまったく違うからだ。法令違反をしているという話なのか、給料など待遇が悪いのか、パワハラの横行など労働環境が劣悪なのか……

   違法状態は無くさなくてはいけないが、「多少ハードワークでプレッシャーも厳しく、世間から『ブラック企業』とも呼ばれているが、自分はそんな環境で成長したいし稼ぎたい。だからブラック企業を選ぶ」という選択肢もあってよい。

   その会社があなたにフィットしていて、長く勤められるようならそれでよし。

   もし何かしらミスマッチがあって転職することがあったとしても、あなたのブラック企業勤務という経歴は転職市場において立派に機能することもあるだろう。

   先日も、若手人材の採用を検討している会社の経営者がこう言っていた。

「ブラック出身?いいね~ ウチで活躍してるよ。ハードワークでパワハラ受けてて、給料安い人って、うちに来るとみんなハッピーになれるんだよ。なかなかいいよ!」

(新田龍)