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社内が「縦割り行政」になる原因 それは会社の「ビジョンの欠如」だ

「地元の役所で我々の窓口は街づくり関係の部署になるのだけど、先日、役所施設への太陽光パネル設置の件で売り込み相談したら、『それはうちじゃなくて総務課の所管だから、そちらに話してください』とつれないんだ。うちの窓口なのだから協力的観点からつないでくれても良さそうなものなのに、本当に縦割り行政っていうやつは問題だな。ありゃどうにもならん。少しは民間を見習えって感じだよ」

   中小建設関連のG社社長。太陽光発電の事業を新規で取り組みはじめたのですが、お目にかかった際にこんな愚痴を聞かされました。かなりお怒りの様子でした。この時は聞き流したこの話が、その数か月後に今度はG社社内の愚痴を聞いたことから思わぬリバイバルを見せました。

部門同士の衝突が原因で辞める社員も

「縦割り行政」の正体とは…
「縦割り行政」の正体とは…

   社内の愚痴は、営業部隊と建築部隊の連携が悪くて困る、とのお話。仕事の追っ付け合いや会議でのお互い譲らぬ言い合いは日常茶飯事だそうで、トラブルがあるとやれ仕事の慎重さに欠ける建築部隊が悪い、片や顧客の言いなりで仕事を受けてくる営業が悪いと、すぐに揉め事になると言います。最近では部門同士の衝突が原因で辞める社員まで出てしまい、両部長を呼んでうまくやるように指導したものの一向に改まる気配がないのだと。

   程度の大小はあるものの、製造現場や開発部隊と営業部隊の軋轢、衝突は、モノづくり企業では良く耳にする話です。私は社長の命を受けて第三者の立場でオフレコを前提に、両部門それぞれの言い分を洗いざらい聞いてみることなりました。

   営業部隊の言い分は、

「建築は何事にも顧客の方を向いていない。ライバルを意識しながら顧客と折衝している我々の大変さを分かっていない」
「二言目には、できません、やれません。これでは仲良くできるハズがない」
「専門的な事を盾に、なんとか自分たちの主張を通そうとばかりする。おかげで顧客の説得に余計な労力がかかる」

「組織自己保存の法則」が働く

   一方の建築部隊は、

「変更変更で、こちらのスケジュールが押して他の仕事にも支障が出る。少しは現場のことを考えて欲しい」
「すぐに『顧客の要望だから』で無理難題を押しつけておいて、ミスが出ると建築がお詫びしろ。これでは我々が気持ちよく働けない」
「営業は建築の勉強をしようとしない。勉強してできることは手伝うという姿勢が欲しい」

   出るは出るは、納得性の高いものから、子供のケンカじゃないかと思うような、言った言わないレベルのものまで、お互いの部署に対してかなり不平不満がたまっている様子がよく分かりました。

   どんなに小さな企業でも、関わり合う部署が複数存在するなら、「組織自己保存の法則」というものが働き、組織内の部分組織同士間に壁ができるのはやむを得ないことではあります。例えぶつかり合いがあっても、お互いの主義主張それぞれが基本的に会社の向かう方向と言うものをベースにしているのなら、それは結果として大きな問題にはなりません。しかしそうでないと、「部分最適・全体不適合」ということになりかねないのです。G社の場合はまさにそんな状況を感じさせる、かなりの重症であると言わざるを得ませんでした。

   このようなケースで組織に不足しているものは、ビジョンであるケースがほとんどです。以前、当コーナーでビジョンの欠如が経営への求心力を失わせるという話をご紹介しましたが、ビジョンの欠如は組織の横の連携をも狂わせることになるのです。私はヒアリングの結果を受けて社長にビジョンの欠如あるいは共有の欠如の話をしたのですが、どうもピンと来ていない様子でした。そこで思いついたのが、件の役所仕事の件でした。

「あの役所と同じ?そりゃまずいなぁ…」

「以前、社長が役所の縦割り行政に腹を立てられていたことがありましたよね。あれって実は、G社社内に起きている問題と同じことが原因だと考えられるのですよ。役所も本来はビジョンを持って仕事をするべきなのですが、強力なリーダーシップのある長が立たないと、営利団体じゃない分、なかなかそうはなりにくい。すなわち、各部署が依って立つべきよりどころ、いわば共通のめざす姿がないからそれぞれ勝手な価値観で、各セクションの利益優先で動いてしまう。それが縦割り行政の正体であり、当社の営業と建築のぶつかり合いの原因なのですよ」
「あの役所と同じ?そりゃまずいなぁ…。どうしたらいいんだ…」

   社長は自分が腹を立てて侮蔑していた役所の問題点と自社の問題点が同じと指摘されて、ややムッとしながらもようやくビジョンの欠如の意味を理解したようでした。

「ビジョンの欠如が、社内縦割り行政を招く」

ということです。

   自社内に不協和音が聞こえたらなら、経営者は自身のビジョンの欠如、あるいは社員との共有の欠如をまず疑ってみて欲しいこところです。G社ではこれを機に、社長にアドバイスをして差し上げながらビジョン・ミーティングが立ちあがることになりました。(大関暁夫)