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学生の「仮想会社」が崩壊寸前に! その時、「本音のぶつけ合い」から「前進」が生まれた

   以前このコラム欄で、学生の就職活動の支援として大学で行っている課外授業をご紹介しました(「『教えない教育』で大学生が激変 『コミュニケーション苦手』が吹き飛んだ3つの理由」2014年6月26日配信)。

   授業を進めていくにつれて、当初は発言していなかった学生が積極的に発言するようになったり、仕切るのが苦手そうな学生が仕切るようになっていったりする様子を目の当たりにして、大学の職員の方も驚いています。

単位が取れるわけではないのに、ほとんどの学生が休まずに出席

「仮想会社」の運命は…
「仮想会社」の運命は…

   この授業は単位が取れるわけではないのに、ほとんどの学生が休まずに来ます。

   中には大学の通常の授業はあまり出ないのに、この授業は楽しみにしているという学生もいるそうです。こういうことを聞いて私は

「何でみんな、通常の授業がない土曜にわざわざこの課外授業のために来るんだろう?」

と疑問がわきました。そこで授業の最初に、参加している学生に「なんでこの授業を受けにくるのか?」「得るものはあったか?」ということについて発表してもらいました。

   すると、学生は次のようなことを言っていました。

「ここに来ると、みんなと話すことでモチベーションを保つことができるようになった」

「人をまとめるのが大変だということが分かった」

「ちゃんと意見を出すことができるようになった。それは、グループは少人数なので自分がやらないとダメだと思ったから」

「社長はまとめ役で大変だと思った。年齢に関係なく仲間ができた」

「自分は役に立っていないのではないかと思っていたが、自分に対して自信を持てるようになった。周りからそう思われているのではないかと自分が考え過ぎていたのが分かった。参加するのが楽しみになった」

「状況判断ができるようになった」

「今までは人とのコミュニケーションが苦手でできなかったが、いろいろな人と交流できるのが楽しい」

「メールとか電話ではなく、直接会ってやるということが大事だということが分かった」

「自分が良いと思っても他の人に伝えなければ良いと思われないので、発信する力が大事だと思った」

「自分の発見ができて、やる気が出てきた」

「自分もできるかもしれない!」と自信を持てるように

   客観的に見て、この授業に参加する学生は、コミュニケーションが苦手だったり、自分に自信がなかったりという人が少なくありません。でも、授業のプログラムを進めていくにつれて

自分もできるかもしれない!

と自分の可能性に気づいてきて、自信を持てるようになったのだと思います。

   仲間ができるということと、自分に自信を持てるようになってきたということが、学生が参加する大きな理由なのでしょう。だんだん参加人数が増えており、受講した学生が友達を連れてくるということが多くなっています。

   授業では5人位の班を作り、チームを意識して行うということをやっています。

   コミュニケーションが苦手だったとしても必然的に話さないといけないので、少しずつ話せるようになってきます。

   授業の中で、仮想の会社を作って企業活動の疑似体験をするということもやってもらっています。3つのグループに分かれて進めていますが、そのうちの1つは崩壊しそうでした。

   企業でいうならば倒産の危機です。

大事なのは、直接顔を合わせて話すこと

「他のグループに行きたい」
「話がまとまらない」
「集まろうとしても集まらない」

   こういうことを言っていました。

   実際の会社でも起きていることと同じことを体験しています。

   そこで、このグループだけ別の教室に行ってお互いに本音を言い合ってもらいました。

   すると、しばらくしてから戻ってきた時には「頑張っていこう」という感じになっていたのです。

   まだ完全にわだかまりが無くなったわけではないと思いますが、一歩前進しました。

   言いたいことや思っていることを言わずに上辺で仲良く見せかけているというのではなく、本当のコミュニケーションとはこういうことだということを体感したのではないでしょうか。

   便利になった現代では、連絡手段がたくさんあります。携帯電話、メール、LINE、Facebook、Skypeなどは、人と会わずに連絡を取ることができるし、嫌な人には連絡をしなくていいですよね。それは楽だと思いますが、コミュニケーションで大事なのは、直接顔を合わせて話すことです。今の若い人はITツールを使うことに長けていますが、それがコミュニケーション力を低下させている理由の1つでしょう。

   会社に行ったら自分と合わない人、嫌な人とも一緒に仕事をしなければならず、選り好みをすることはできません。「自分が苦手な人とも接していく」ということを学生の段階から経験しておくのは必要なことだ、とあらためて感じています。(野崎大輔)