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「60歳超」経営者に「真冬のゴルフ」は言語道断

   先週の題材の続きです。社長自身が不慮の事故に備えるリスク管理について。

   先週の話に登場した循環器系疾患で40代後半にして亡くなられたO社のI社長。実は亡くなられる3年ほど前に、真冬のゴルフ中に軽い心筋梗塞で倒れられたことがありました。その時は大事には至らなかったのですが、以後医者からはタバコは厳禁、お酒も控えめに、と厳しく指導されていました。

「社長の趣味がバイク・ツーリング」の危険性

「経営者のゴルフ」の注意点とは...
「経営者のゴルフ」の注意点とは...

   しかし亡くなられる半年ほど前から、家族には内緒で会社ではタバコを吸うようになっていました。周囲からは「社長、タバコは止められているんでしょ」と言われていましたが、本人は「もう完治した」と勝手な自己診断で取り合わなかったのです。

   社長の死因は動脈瘤破裂。会社の忘年会の席で、タバコを吸ってそのまま倒れられたのでした。結局心筋梗塞と同じ循環器系疾患で、喫煙による血管の収縮が発症を引き越したのでした。忘年会で横に座っていたT専務は、「僕がもっと強く、絶対タバコはダメだよと止めるべきでした。本当に悔やまれます」と後に話していました。

   社長自身の健康管理は最低限の責務です。既往症があるのなら医者の言いつけを守る等その管理は当然のこと、見かけ健康体の経営者でも最低年1回の人間ドック検診は、組織の長たる社長の立場からは必ず受けなくてはいけません。「医者嫌い」を公言し「人間死ぬ時は運命」などと言ってはばからない経営者も間々いますが、経営者の健康管理面での手抜きに対しては、周囲は厳しく接する必要があります。

   健康管理面以外にも、日頃から社長が管理すべきリスクはあります。

   I社長の最初の疾病、心筋梗塞の引き金となった真冬のゴルフ。これは非常にリスクの高い行動です。ゴルフ好きの経営者は世に多いのですが、やはり年齢を踏まえて時期を選ぶことはしなくてはいけません。60代以降の真冬ゴルフは言語道断、真夏のゴルフも体調を崩しやすく、これが大病発症の引き金になることもありますし、既往症の悪化などにつながることも多々あります。いくらゴルフが好きでも大人の判断を誤っては社長失格です。

   別の会社のお話ですが、仕事のご依頼をいただいた時に社長の趣味がバイク・ツーリングであると聞いて、お仕事を引き受けさせていただく前に、その趣味を社長在任の間は封印していただきたいとお願いしたこともあります。

   社長は私の突然の申し出にやや不機嫌な面持ちで、「なぜ仕事に関係のない趣味を封印しなくてはいけないのか」と問いかけ、私はバイクに乗る危険性のお話をしました。

健康・行動管理は、社員の生活を預かる者の責務

   すると社長は、

「君はバイクを良く知らんようだな。僕の乗っているバイクは大型だよ、安全性は非常に高い。万が一の危険の回避だって、小回りが利く分だけ乗用車よりも安全なぐらいだ」

と反論しました。

「バイクも乗用車も事故に巻き込まれる確率が同じだとすればバイクの方が、万が一事故に巻き込まれた場合には、死亡を含む致命傷を負うリスクが圧倒的に高いと思います。私は、社長職を不慮の出来事で辞さなくてはならないリスクの高い乗り物は避けるべき、と思います。どうしてもバイクに乗りたいのなら、社長職を辞されてからお願い致します」

   私はキッパリとお話し、渋々ではありましたがご理解をいただきました。

   極論をするなら経営者は自己のリスク管理の観点から、電車で行けるところは極力電車で行くなど、乗用車でも乗らないで済むならなるべく乗らない方がよい。事故発生時の死亡事故確率が高い高速走行は極力避ける。自身での運転はせず、乗車の場合も助手席乗車は避け運転席後ろに座る(タクシー乗車時も同じ)。プロを除く関係者以外の人の運転には同乗しない、なども心掛けとしてはあるに越したことがないと思うのです。

   スポーツ、レジャーなどでも、リスク回避は意識すべきです。若い経営者などからは、バカンスで海外旅行の土産話を聞くことがよくありますが、「海外でジェットスキーに初挑戦して楽しかった」とか、「つり橋バンジーに挑戦し、すごい迫力だったとか」とか、「街中を牛が走り回る牛追い祭りに参加できて、最高だった」とか...。首をかしげたくなる話も多く耳にします。他にも、山登りやハングライダー、本格ラフティングなどの類は、あくまで個人的感覚ではありますが、経営者としてのあるべきリスクマネジメントの観点から申し上げれば、極力避けるべき行動であると思うのです。

   そこまで神経質にならなくとも、と思われる向きもあるかもしれませんが、要するに経営者たるもの、一介のサラリーマンとは責任の重さが違うのだという自覚を持って行動して欲しいということなのです。極力リスクを回避するような健康管理、行動管理は、組織を運営し社員の生活を預かる者の責務であるとの認識をもって対処願いたいものです。(大関暁夫)