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業績伸び悩みは「社長の僕が悪いのか、社員が悪いのか」 そんな組織に欠けている「力」

   以前にも触れた、会社を一皮むけさせ発展させる「仕組み化」のお話に関連して、ある集まりの席上で興味深い会話が展開されていました。

   セミナー講師として呼ばれ講演をした後の懇親会でのことです。私に積極的に話かけてきた30代後半の若手工務店経営D社長。若くして創業し、既に社長業は10年超であると。しかし話しっぷりからうかがえたのは、頭打ち感的お悩みでお困りのご様子。とりあえず「今ある具体的なお悩みは何か」と問いかけてみることにしました。

社員「100人」と「5人」の違い

仕事が「仕組み化」されていれば・・・
仕事が「仕組み化」されていれば・・・

   すると出るわ出るわ、「社長自身が、日々の仕事に追われないためにはどうしたらいいのか」「自分ばかりが何役もこなす状態を脱したい」「どうしたらもっと社員が戦力になってくれるのか」等々、悩み事を次々まくしたててきます。私が聞いたところ彼のお悩みの根源は、「自社を一人親方状態から、もっと会社らしくするにはどうしたらいいのか」ということのように思えました。

   そこに50代半ばでこの集まりの重鎮役員でもあるN社長が、私への挨拶がてらに話に加わってきました。N社長はD社長にとっては会の先輩であると同時に、業界の先輩でもあるそうで、D社長は私にN社長を紹介しつつ話しかけました。

「N先輩はすごいんですよ。ご自身で会社を立ち上げられて、あれよあれよと言う間に涼しい顔でどんどん会社を大きくされて、今や100人規模じゃないですか。僕なんか会社を10年やって、必死に動き回っていまだに社員5人規模ですから。どうやったらそうやって会社を大きくできるのか教えて欲しいです」

有能な「仕掛け型経営者」

   そんな質問に、N社長が答えます。

「僕はほとんど何もしていないよ。まわりのみんなが一生懸命やってくれているだけ。おかげで、知らず知らずに会社が大きくなってきたまでです。僕もDくんぐらいの年ごろまでは、あれもこれもと死に物狂いで働いていたかもしれないけど、元来怠け者の僕はそれも長くは続かなくてね。肩の力が抜けたら、不思議とうまく回るようになったのだよ。Dくんもいろいろ悩んでいるところを見ると、そろそろ力の抜き頃がきているんじゃないか」

   そう言うと笑顔でN社長はその場を立ち去ったのですが、成功した経営者ならではの含蓄ある言葉だなと私は思いました。

   N社長がいなくなった後に、D社長がポツリと言いました。

「N先輩はああ言うけど、そりゃ無理だって。今僕が力抜いたらうちの会社つぶれちゃいますよ。10年以上走ってなお走り続ける。一体僕はどこまで走り続けなくちゃいけないのか。片や先輩は、会社設立から10年になる頃には既にのんびり歩く風情で事業を発展させていたんですよ。そうならない我が社は、僕が悪いのか、社員が悪いのか」

   D社長は初対面でも分かる体育会系で、バイタリティあふれるタイプです。先輩経営者方の話では、若いけど努力家かつ類まれな営業力、推進力の持ち主で、あの若さで官民問わず次々地域人脈を広げ10年以上も立派に会社を存続させているのはたいしたものだと、評判は上々。有能な「仕掛け型経営者」として会社を引っ張っている様子がうかがわれます。

もうひとつ別の力、「仕組む力」とは

   一般に設立から5年以内に9割以上の会社が姿を消すと言われている中で、生き残る会社はほぼ100%と言ってもいいほど、経営者にその人脈も含めて人並み以上の営業力が備わっているものです。言ってみれば、経営者の「仕掛ける力」なくして新たに設立された会社は存続し得ないわけです。しかし存続だけでなく発展という形でさらに先へ行くためには、もうひとつ別の力が必要だというのが私の持論です。それが「仕組む力」です。

   N社長が言っていた「僕は何もしていない」が本当なら、その裏にあるものは「仕組む力」に違いない、と私は思いました。社内の管理や事務フローはもちろん、営業の基本スタイルや個々の社員が身につけるべき知識などまですべてが仕組み化されているなら、間違いなく社長はこまごました仕事を一切せずとも会社が前に進み、自らは判断業務だけに専念している状況になるはずですから。

   そんな私の話を聞いたD社長、何かに気づいたように言いました。

「『仕組む力』って、要は基本パターンをつくって自分がやっている仕事を部下や後輩にやらせることですよね。それ、俺が昔サラリーマン時代にも上司から言われていたことですよ。自分を楽にする方法は基本を教えて、自分の代わりをつくることだって。それかぁ!」

   会社を存続させ、そして発展させる経営者に求められる、「仕掛ける力」と「仕組む力」。そのことに少し気づきを得た様子のD社長は、彼の能力の高さできっと発展軌道をつかむのではないでしょうか。またの機会にお目にかかるのが楽しみになりました。(大関暁夫)