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「死ぬ気で仕事しよう!ただし、1日8時間以内でね!!」 「ブラック企業は生き残れないパート3」

   今回は、過去2回にわたり紹介してきた「ブラック企業はもはや生き残れない」のテーマの最終回。初回に触れた4つの柱のうち、「3:ワーク・ライフ・バランスを実践し、充実した人生を愉しんでいるイクメンたちの共通点」と、「4:今日から具体的に、何をどうしていけばいいのか?」について考える。

「ワーク・ライフ・バランスを重視した生活」とは?

お帰りなさ~い
お帰りなさ~い

   柱「3」に関わる「ワーク・ライフ・バランスを重視した生活」というと、あなたはどのような生活スタイルをイメージされるだろうか。大学講座などに出講時、同様の質問を学生にしてみると、概ね

「仕事はテキトーに終わらせ、早く帰って自分や家族との時間を何よりも大切にしている」

という印象を抱いている人が多いようだ。確かに、ブラック企業勤務時代の私も同じような考えであった。

   しかし、私自身がブラック企業のブラック労働から抜け出し、自らもイクメンとして育児にも関わっていくと心に決め、ワーク・ライフ・バランスを実践していくにつれて、実態は全く異なることに気づいたのである。それは...

ワーク・ライフ・バランスが実現するのは「楽しい」が、決して「楽(ラク)」ではない!!

ということだ。では、なぜ「ラク」ではないのだろうか。

   それは、日本の労働環境の特異性かもしれない。本来そうあるべきではないのだが、ワーク・ライフ・バランスは「組織から与えられるもの」というよりも、「自らの力で勝ち取るもの」という実態になっているからだ。

   もちろん、組織側は「働きやすさ」をアピールしたい。したがって、「当社は育休・産休制度が整っています」とか「ノー残業デーを設定しています」などと打ち出す会社が多いのだが、「制度が整っている」ことと、「制度が使いやすい」ことはまったくの別問題だ。実際、

「たしかに『残業するな!』とは言われるようになったが、業務量は変わらず、効率的な仕事の進め方や仕組みがあるわけではない。結局、残業しまくって業績がいい人だけが評価される構図は変わらない」
「育休・産休や時短勤務制度はあるが、『制度を活用すると出世コースから外れる』ことが暗黙の了解になっている」

といった声はよく聴かれる。制度が存在しているのであれば、それを利用することは労働者の権利であるはずだが、使えない制度は存在しないのと同じだ。本来誰にとっても使いやすいものでなくてはならないが、残念ながら本来の目的に沿っていないところも一定割合みられる。

制度があるなら、上手く活用すればよい

   その理由には、単に組織内の仕組みが整っていない、というものもあれば、周囲の人間関係に配慮、もしくは遠慮して、「利用したくてもできない」、というケースも存在している。

   制度を利用しない者にとっては、制度利用者が「自分たちの負担によっていい思いをしているヤツら」とでも見えているのだろうか。

   そのような不寛容な職場は残念ではあるが、嘆いていても何も変わらない。制度があるなら、上手く活用すればよいのだ。

   実際、「使いやすくはないけど、制度自体はある」という感じの組織で、うまくワーク・ライフ・バランスが実践できている人には共通点がある。それは、

「仕事は確実にこなし、限られた時間の中でも価値を創出できている」
「『困ったときはお互いさま』の気持ちで、周囲にも積極的に貢献できている」

ということだ。すなわち、休職や時短を所与の権利として取得するだけ取得し、「後は任せたからね~」という丸投げな感じではなく、「周囲から文句を言わせないくらい、もしくは周囲から配慮されるくらいのレベルでやるべき仕事をきっちりやり、堂々と権利を取得する」という状態が近しいだろう。

   この構図は、職場内での「出世」とも近しいかもしれない。普段から声高に「これだけ頑張ってるんだから、出世させろ!」と主張する人よりも、地道に成果をあげて、周囲にもきちんと配慮し、サポートできる人が、周囲から「ぜひ○○さんにマネジャーになってほしい」と推される人の方が、結果的に出世が早かったりするものだ。

   そう考えると「ワーク・ライフ・バランス」も「出世」も同じで、権利を主張するより先に、自らの行動と成果によって「あの人にやってもらいたい」と「周囲から応援される存在」となることが先決なのかもしれない。

育児できる男は仕事もできる!

   「イクメン」とか「男が育休」というと、あたかも「出世競争から降りた弱腰人材」みたいに捉えられてしまう向きがあるが、そんなことはない。

   私自身が普段ご一緒しているイクメンの皆さん方はむしろ、時間がない中で成果を出せ、リスク管理ができ、コミュニケーション力に秀でた「デキる人」ばかりなのだ。育児経験を持つことで、仕事にもいい形で反映するポイントが確実に存在するといえよう。では、柱「4」の具体策とは...


(A)子供とのコミュニケーションはマネジメントに活かせる

   育児は部下育てと共通点が多い。「相手の話を聴く」、「自らは手を出さずに見守る」、さらには「褒めて育てる」、兄弟がいたら片方を叱るときに必ず「1人にして叱る」など、会社組織内でのコミュニケーションやマネジメントに活かせる場面が多い。

   実際、人材育成の評価が低かった人が、育休明けからマネジメントが変化し、部下が成長して本人も早く帰れるようになり、結果的に評価も上がった、という事例もある。


(B)効率的に仕事ができるようになる

   保育所や託児所のお迎え時間が決まっている場合や時短勤務なら、どうしても残業せず帰らねばならない。「時間がない」という制約条件の中でいかに効率的に成果を出すか、日々試されることになる。いわば、毎日「台風が来てるから、電車止まる前に早く帰れよ。でも仕事は全部終わらせてからな」と言われているようなものだ。

   必然的にダラダラする余裕はなくなり、常に集中しなければならない。ただ、やってみれば意外と時間は捻出でき、いかに普段の仕事にムダが多いか、「残業が当たり前文化」に毒されているかに気づくことになる。


(C)本当の意味で「チームワーク」が求められる

   育児も仕事も同じで、ひとりで抱え込んでいてはできない。周囲の理解と協力が必要であり、そのためには「今日は16時に帰るので決済はそれまでに、メール対応はその後でもできる」などと情報共有し、起こりうるリスク要因は先に伝えておかねばならない。

   また、自分から積極的に周囲に関わり、「困ったときはお互い様」というマインドで接すれば、思ったよりも周囲が味方になり、助けてくれることも多い。

問題は「時間」ではなく、密度と創出価値、成果

   私自身も、以下のような工夫をして学んだことが多い。


・とにかく、仕事を早く終わらせるように努力した
・周囲に「家事・育児があるため、18時以降は仕事しません」「その代わり、朝早くやります」と伝えた
・仕事は「自分の前後の工程」を担当する人にも配慮して「段取り」しておく

→→最初は全部自分ひとりで抱え込もうとして失敗... 周囲の人にも協力を適宜お願いしながら、自分の領域は確実にこなすことに注力

・重要なのは「自分でやり切る」ことではなく、「問題が解決」することだと気づいた

→→「相手が解決したい課題は何か?」と考えて行動できるようになり、仕事の精度が上がった

・子供とのコミュニケーションは、部下の育成と似ていると気づいた

→→「相手は何も知らない」という前提で対話することで、納得感のあるマネジメントに進化

・より効率的に時間を使えるようになった


   私自身、仕事はそんなに早いほうではなく、部屋も机も散らかっている人間だ。そんな、キッチリとは程遠い私でも、ワーク・ライフ・バランスは実現できている。したがって、本稿をお読みのあなたにも間違いなくできることである。

   ぜひ、今日からは仕事の密度をあげていこうではないか。合言葉は

「死ぬ気で仕事しよう! ただし、1日8時間以内でね!!」

   カン違いしている人が多いが、「ハードワーク」=「残業」ではない。時間であらわされるものではなく、あくまで密度と創出価値、成果で計られるものである。

   ハードに働きつつも、生産性の高い仕事をしてライフとのバランスをとり、その時間をインプットに充て、また仕事に向かうためのエネルギーにしていこう。皆がそういった本来の意味でのワーク・ライフ・バランスを実現できれば、仕事風景もだいぶ変わって見えることだろう。(新田龍)


   なお、前の2回のコラムについては、下記を参照してください。4つの柱のうち、「1:『ワーク・ライフ・バランス』への根強い誤解をとく」を扱ったのはコチラ、また「2:男性の育児参加を推進することのメリット」はコチラ。(新田龍)