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人を雇うって、こんなに大変なの? 「夢のカフェ経営」の死角

   数年前から、「プチ起業」して、カフェや、趣味のお店を開く女性に注目が集まっています。子育てが一段落したのをきっかけに、自己資金で「小さなお店」を開く女性たちが、メディアに取り上げられているのも、よく目にします。

   が、『好きを仕事に』が叶って、仕事が上手くいけばいくほど陥る『ジレンマ』もあるようで・・・。

「夢」だった、ウィーン菓子のお店

大変なのよ・・・
大変なのよ・・・

   E子さん(47歳)は、首都圏近郊で、4年前から小さなカフェを運営しています。主婦として、3人の子育てに忙しくしていたE子さんにとって、カフェを開くことは「漠然とした夢」でした。もともとお菓子作りが大好きだった彼女は、学生時代にオーストリアへ旅行し、「ザッハトルテ」や「クグロフ」といった、当時はまだ日本でそれほど有名ではなかった「ウィーン菓子」に魅了されます。それらを手作りして、友人に振る舞ううち、ある人から「これは商品化できるレベルだね」と言われます。その一言がきっかけで、「ウィーン菓子を気軽に楽しめるカフェ」を開く夢が、固まっていったそうです。

   子育ても一段落したタイミングで、E子さんは、親戚から小さな土地を譲り受け、お店を開きました。始めは、お客さんもまばらでしたが、口コミで人気が広まり、開店2年目には、あるテレビ番組の取材が来るほどに。

   ところが、テレビの影響力は、思ったよりもすさまじかったのです。放送翌日から、お客さんが殺到。店の外には行列ができ、開店後2時間で、売り切れてしまう日が続きました。ゆっくり接客するヒマもありません。常連さんに、「今日は満員ですね、また来ます」とか、「もう売り切れですか・・・」と、寂しそうな顔をされるのは、辛いものがありました。

ついに「人を雇う」! だが、それは試練の始まり・・・

   これでは、常連客どころか、新規のお客さんも、満足させられない。そう考えたE子さんは、ハローワークに求人を出すことに。時給は850円でしたが、翌々日には、ある専業主婦(Mさん)から、応募がありました。猫の手も借りたいほど忙しかったE子さんは、Mさんの履歴書を見て、「これまでに、10以上のパート職を転々としてきたようだけど、真面目そうだから」と、採用を決めます。しばらくは、Mさんも一生懸命に、菓子類の仕込みや、カフェでの接客を覚えてくれようとしていました。

   ところが、ある日のこと。E子さんが忙しくしている時、「卵が足りなくなったので、ちょっと近くのスーパーで買ってきて頂けませんか」と頼んだところ、Mさんは、「買い出しなんて、募集要項には書いてませんでしたよね? 私は、お菓子作りと接客以外の仕事はしません!」と、怒り出しました。

   その頃から、Mさんの態度が、少しずつ変わっていきます。菓子作りの基本作業を任せると、「どうして、仕込みは私なんですか? もう少し、高度な作業もさせて下さい」と言い、接客の仕方を注意すれば、「以前の指示と違います」と反発。

   E子さんは、Mさんの反発に、ほとほと疲れ果ててしまい、「どれだけ忙しくても、1人でやっている方がマシ!」と、思うように。ハローワークに相談し、円満に辞めてもらうことにしました。

   もちろん、Mさんにも、「募集要項には『菓子作りと接客』とあったのに、買い出しに行かされるなんて!」とか、「私を信頼していないから、基礎的な作業しかさせてもらえないのでは?」などの、不満もあったことでしょう。そうしたすれ違いも含め、2人の相性が合わなかったのは、仕方がありません。

   E子さんは言います。「忙しくなったから人を雇う。簡単なことだと思っていたけど、こんなに大変だなんて・・・もう、1人で対応できる分しか作らないし、無理にお客さんを増やそうとは思いません。それで十分なんです」。彼女は今、当初のコンセプトだった『小さなお店』に立ち返ろうと、考えているのです。(北条かや)