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社内不正を犯した者に「自白」を促すポイント クイズ形式で3問出題

   大きな関心を集めている東芝の不適切な会計処理問題では、3年間で累計約500億円強の減額修正が見込まれている。同社は先日(2015年5月15日)、事実究明のために第三者調査委員会を設置し初会合を開いた。最近では、このような調査委員会が不祥事発生の原因を分析する際に「不正のトライアングル」を活用するようになってきている。

   不正のトライアングルとは、金銭問題や業績目標達成の『プレッシャーの抱え込み』、チェックの甘さや任せきりによる『機会の認識』、「盗むのではなく借りるだけ」「これくらいのことは他でもやっている」などの『正当化』という3つの心理的要素が揃ったときに、人は横領やデータ偽装などの不正行為を犯しやすくなるという考え方である。

不正のトライアングル

この人なら・・・
この人なら・・・

   しかし、「不正のトライアングル」による原因分析には難点がある。それは、3つの要素がすべて本人の心の中で主観的につくられるため、本人が不正を犯した時の心情を包み隠さず話してくれない限り、本当の原因は明らかにできないという点だ。

   では、不正を犯してしまった相手に本心を語ってもらいやすくするためにはどのような工夫が必要だろうか。

   以前にも紹介した公認不正検査士協会(ACFE)の「不正検査士マニュアル」には、不正を犯した者に自白を促すための対処法が書かれている。それを参考に、○×クイズ形式でいくつかのポイントを紹介する。次の3問について、考えてみてほしい。

<問1>不正を犯した者に最大限の共感を示すべきである
<問2>「横領」「詐欺」「不正」など、犯罪に直結する言葉はできるだけ使わない
<問3>不正を犯した者に一切言い訳をさせてはならない

「この人なら分かってくれそうだ」と

   さて、「問1」の答えは・・・「○」である。例えば、本人が業績目標達成のプレッシャーをどれだけ強く感じていたのか、借金等でどれだけ行き詰っていたのかについて「そこまで追い詰められていたのですね」と共感を示すことで、相手に「この人なら分かってくれそうだ。本心を話してみよう」と思ってもらえる可能性が高くなるのかもしれない。

   ただし、気を付けなければならないのは、相手の境遇に理解を示しつつも、同情や迎合はしてはならない。事実を冷徹に究明する視点を失ってはならず、「正直に言えば許してもらえる」などと期待させるような言動は慎まなければならない。

   次に、「問2」(「横領」「詐欺」「不正」など、犯罪に直結する言葉はできるだけ使わない)の答えは、これも「〇」である。

   「なぜ利益を不正に計上したのか」と問いただすよりも「なぜ利益を計上するタイミングを早めてしまったのか」と質問したほうが、自白に対する心理的な壁はできにくいといえるだろう。同じように「会社の資金を横領した」は「会社から無断で金銭を持ちだした」に、「業者から賄賂を受け取った」は「業者から金銭を受け取った」などと言い換える工夫をするとよい。面接者が相手を「悪人」扱いすると、自白を得るのは難しくなるとマニュアルは指摘している。

相手に迎合するような言動をしてはならない

   最後に「問3」(不正犯した者に一切言い訳をさせてはならない)は、「×」が正解である。

   本人が不正をしたことを認めたならば、自白を促すためには、本人に「逃げ場」を与え、自らの不正行為を正当化する余地をつくることも有効な手段となり得る。例えば「△△さん、これは決してあなたの私利私欲のためにやったわけではないですよね。業績不振の▲▲部門を何とか立て直したいというあなたの責任感がそうさせてしまった。その点は理解しているつもりです」などと言うことにより、相手はある程度体面を保つことができ、不正を犯すに至った心理を素直に話しやすくなるだろう。

   不正検査士マニュアルでは、時には会社や上司を悪者にするのも一考だと書いている。例えば「何が何でもコスト削減、赤字はまかりならんと頭ごなしに言い続ける上司(会社)が、あなたに相当なプレッシャーを与えていた。そんな状況に置かれたら、誰でも行き詰ってしまうかもしれません」というような言い方である。

   しかし、この場合も、「問1」のところで述べたように、相手に迎合するような言動をしてはならない。

   いずれにしても、自白を求める前には、事前の証拠固めが不可欠である。その順番を間違えると、虚偽自白の強要という事態を招く。尋問する側は十分に注意が必要だ。(甘粕潔)