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米独「両帝国」は20年以内に衝突? その時、日本はどうすべきか

   『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』(エマニュエル・トッド著、文春新書、税別800円)

   かつて旧ソビエト連邦の消滅を予言し、その後のアメリカ合衆国の衰退も見通したとされる人口学者が、ドイツを「帝国」にみたて、欧州の支配ぶりをフランス人の視点から描いた本である。

   実際には、2011~14年のメディアのインタビューを日本向けにまとめたもの。あっちをバッサリ、こっちもバッサリと批判しながら、今の欧州と世界をめぐる鳥瞰図を描く語り口が小気味いい。

「経済力で欧州の支配を着々と進める国家戦略を展開」と指摘

   日本におけるドイツ像は、現首相が女性のメルケルであることや、原発全廃を決めたことなども含め、何かとプラスイメージで語られる。「欧州とEUにおける経済の優等生」。「ナチスの負の遺産を周辺国への贖罪とともに克服した国」。同じ第二次大戦の敗戦国ながら、日本が見習うべきことの多い国というステレオタイプで描かれることが多い。

   しかし、著者は、ドイツが武器を使わずに経済力で欧州の支配を着々と進める国家戦略を展開しているとし、EUの盟友とされる母国フランスも配下にあると憤っている。

   昨2014年のウクライナをめぐる武力紛争にもドイツがからんでいるとする一方、プーチンによるロシア国家の再建を過小評価してはいけないと警告するなど、日本ではお目にかかれない「ご託宣」も多い。

   当然、ドイツが主導した欧州共通通貨ユーロに対しては極めて懐疑的で、彼の言を信じれば、昨今のギリシア危機の先行きは暗澹としていると言わざるを得ない。

   本書の中で、自身を「親米左翼」と位置付けるトッドにとって、ドイツが「帝国化」したのは、アメリカから離れていくという大きな流れのなかで必然の動きということになる。家族制度も含めて、他の西欧諸国との価値観の違いから、今後20年の間に、米独の2大帝国が衝突する危険性があると予言もする。

   翻って、日本は戦後、米国に一貫して従属し、経済的にはアジアの覇権を握ったかに見えたが、アジアのトップの座は中国に奪われ、戦後70年を過ぎても歴史認識問題に完全な終止符を打てていない。

   米国に危険視されるほどのプレゼンスを、今の日本が持てていないことも浮かび上がってくるような本である。(MD)

『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』
『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』