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「私がこれでクビなら、社長も辞めるべき」 店長をブチ切れさせた「経営トップの勤務態度」
【社長のお悩み相談室】

   社長の普段からの行動や姿勢がいかに大切かと言うことを、痛切に感じさせられる『事件』が起きました。乗客、乗務員15人の命を奪った長野県軽井沢町でのバス事故です。

   夜行バスが当初の予定ルートとは違うルートを会社には無断で走行し、大型バス運転に馴れないドライバーが一般道の夜道で起こした事故でした。バス会社社長の会見では、社長の担当業務であった業務前点呼(ドライバーの健康チェック目的)が、社長自身の遅刻により行われていなかったことが明らかにされ、社長が謝罪しました。

軽井沢のバス事故と「社長の遅刻」の関係

遅くなりました・・・
遅くなりました・・・

   この社長の遅刻が持つ意味は、実はものすごく大きいのです。恐らく今回の事だけではないのでしょう。社長は普段から遅刻が多かったか、自分で「現場の負担を減らすため」引き受けたにもかかわらず、サボっていたのか。報道からは、そんな状況が十分にうかがい知れました。また、事故を起こしたバスの運行管理票には、運行完了確認印が出発の段階で既に押印されていたといいます。社長と同社全体を覆う、いい加減で杜撰な管理実態が次々と明らかになっており、事故は起こるべくして起きたと言える状況だったことが分かりました。

   組織のトップたる社長の責任は重大です。一事が万事、日常のいい加減な行いがそのまま現場の安全面確保にも影響が出てしまう、従業員の範となるべき組織のトップがいい加減な行いをしていたのですから、当然の結果でもあります。「従業員の範となるべき」という表現に経営者たる社長は関係ないだろう、と思われる向きもあるかもしれませんが、中小、中堅企業では社長こそ社員の行動基準であることを忘れてはいけないのです。

   数年前、飲食のフランチャイズチェーンを数店舗経営する中堅企業M社で、人事関係をお手伝いした折のことです。店舗F店でスタッフのシフト管理がうまくいかずに突然の人員不足が相次ぎ、待ち時間が長くなる、メニュー通りに料理が作れないなどのサービス低下により、フランチャイズ本部にクレームが殺到するという事件が起きました。

「遅刻」スタッフは「店長が一番(遅刻を)やっています」

   フランチャイズ本部の見解はこうでした。

「勤怠管理の低下は単にサービスの低下だけでなく、必ずや食中毒や異物混入などの事故に発展します。そうなればそれはチェーン全体の大打撃につながることであり、我々は現状の改善が早期にできないなら、チェーンを守るために御社には全店撤退を勧告します」。

   本部の言っていることは至極真理です。このままではF店の閉店はおろか、M社のフランチャイズ除名までありうる状況に至ったのです。

   突発的かつ人員不足頻発の原因は、スタッフの急な欠勤や遅刻の多発などにより、シフトや引き継ぎがうまくいかないことにありました。通常10人で回す店舗が、繁忙時間帯に半分の5人で回す羽目になるような事態もあったのです。店長へのヒアリングでは、「スタッフがいくら言っても言うことを聞かない。会社として、欠勤などに相当なペナルティをルール化してもらわないと、改善は無理ではないか」と、お手上げムードをにおわせていました。

   しかし、スタッフへのヒアリングで事態は急転しました。店長自身が勝手に突然休暇を取ったり、遅刻常習犯だったりしたのです。店長は自己の勤怠記録を改ざんしていたようで記録上からは分からなかったのですが、遅刻や欠勤が多いスタッフへのヒアリングをおこなったところ、「店長が一番やっていますから」という話が続々噴出したのです。

   現場調査結果を聞いた社長は、「本人を呼んで事実確認をし、スタッフの話が本当なら勤怠データ改ざんを理由に解雇する」と言いました。すぐさま店長が本社に呼びつけられ、社長に加え店舗統括部長、人事部長同席での面談が行われました。

社長は社員の鑑

   店長は勝手な休暇取得、遅刻とその勤怠データ改ざんの事実を認めました。これを受け、社長から懲戒解雇が告げられると、彼は吐き捨てるようにこう言ったのです。

「社長だってそうじゃないですか。勝手に休暇とっていきなり僕らに本部会議への代理出席を押し付けるし、毎日の出社時間だっていい加減じゃないですか。朝一で社長面談の予約を入れて始業時間に本社に直行しても、1時間以上遅刻で待たされることはザラです。社長と同じことをしている社員がクビになるのなら、社長も辞めるべきじゃないのですか」

   社長は彼の顔をジッ見つめると、何も言わずに部屋を出て行きました。

   社長は、「すべては経営者である自分の管理怠慢が原因であり、まずは自らが社員の範となるべく襟を正して行動し、二度と同様の事態に至らぬよう改善指導を徹底します」との文言を付して、フランチャイズ本部に報告書を上げました。

   その後この一件について社長は多くは語りませんでしたが、これを境に社長自身がスケジュールをしっかりと社員に開示し、目に見えて時間厳守、約束厳守を徹底するよう改めたと聞きます。さらに、社長自身が店舗を頻繁に訪れては直接、叱咤激励することも増えたそうです。F店は順調に立ち直り、今では約半数の店が優良店舗表彰を受けているそうです。

   「社長は社員の鑑」。社長と社員の距離が近い中小、中堅企業で、これは常に真理です。バス事故の悲劇も、社長の自覚ある行動があったならと、悔やまれることこの上ありません。(大関暁夫)