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経営者にも迷いがある時代 「社員と会社」の理想的関係とは
【長寿企業の素顔】

   前回紹介したように、長寿企業の中で、家族主義をとっている会社と、実力主義をとっている会社を見たところ、圧倒的に実力主義のほうが多かったのです。どうやらこれには、経営者の希望がかなり含まれていそうです。

   今回の調査対象の長寿企業は、最短でも創業100年。平均は145年ですから、創業時は坂本龍馬が暗殺された頃です。つまり、江戸時代の幕藩体制が終わりに近づいた時に創業した会社が平均像でした。日本で第2次世界大戦後に赤ちゃんが大量に生まれた時代がありましたが、企業も1947年から年々、多くの企業が創業されており、それはオイルショックがあった1973年まで続きます(翌74年に起業数は大きく下落)。時代の変わり目は、いつのときも組織や企業の創設が増えることが分かります。

家族主義、実力主義...経営者の考え方は、徐々に変化

社員と会社、その距離感が・・・
社員と会社、その距離感が・・・

   今回の調査対象の328社は、江戸末期から大正の始め頃に創業された会社が多いと考えられます。1910(明治43)年の国内総生産は78億円程度で、企業物価指数で現在の価値に換算すると11兆8000億円ほど。2014年の国内総生産487兆6000億円に対して2.4%に過ぎず、経済活動の多くは政府系の需要に支えられていました。

   一般企業は、時代劇に出てくるような小規模・オーナー経営がほとんどの時代。企業は自ずと家族経営であったでしょう。それから戦争を挟んで、百数十年を経て今日へと向かい、経営者の考え方は、徐々に変化してきました。

求心力を意識した社員の立場

   戦後からバブル経済が崩壊する1990年までは、日本企業にも経済的、人的に余裕があり、当たり前のように大家族主義経営がとられてきました。その後、90年代の低成長とマイナス成長が織りなす中で、家族主義経営を放棄する企業が出てきます。家族主義の原則である年功序列と終身雇用が守れなくなったからです。

   戦後の復興を支えてきた長寿企業たちは、資産は豊富なので非長寿企業のように、すぐに人員整理へ走るのは少なかったのですが、収益性は必ずしも高くないので、家族主義から徐々に、社員を厳しく選別する実力主義へと移行しようとします。それが「実力主義」と「やや実力主義」が計45%という結果につながっているのでしょう。

   考え方では「実力主義」を求めているけれど、企業の実力的には「やや家族主義」が好成績を残しています。このように、経営者にも迷いがあるという時代。日頃のビジネススタイルは、求心力を意識した社員の立場に立つのがよいのではないでしょうか。企業にとって、求心力のコアは代表者であり、オーナー経営であるなら、オーナー家が核になります。それに対する理解を深めるということです。

 

   社史がある会社なら、読み返してみましょう。無い会社なら、我が社の歴史や業界の歴史に関係する資料や書籍について、上司や総務に尋ねてみることです。(浅田厚志)