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我々は現実を見ているか 「この国すげー」連発に感じ取れるものは

   ここ数回、「日本は衰退途上国である」という話を続けてきましたが、それは、日本のテレビを見ていて「日本すげー」と礼賛する番組が本当に多くなったと感じたからです。

   本当に凄い人は、自分のことを自慢しないし、凄さをこれ見よがしに見せつけたりもしません。同様に、本当に凄い国民は、「俺たちすげー」ってことを見て喜んだりもしません。

   「日本すげー」の連発は、日本人の生活が今までよりも悪くなってきたけど、それを認めたがらない国民が増えて来た証左だと思うのです。

この国の偉大さを伝える

コノ国ハ、シュゴイ!
コノ国ハ、シュゴイ!

   たまたま、先日見た「俺たちニュースキャスター 史上最低!?の視聴率バトルinニューヨーク」(2013年)というバカ映画は、まさにそんな事態を風刺した映画でした。

   舞台は1980年代のアメリカ。折しも、日本などの新興国が伸びてきて、アメリカ is No1が崩れてきた時期。日本人が欧米でブランド品を爆買いし、日本の会社がロックフェラーセンターなどの不動産を買収していたころのお話です。

   サンディエゴで人気のニュースキャスターの主人公が、ニューヨークに呼ばれて全国デビューしたのはよかったものの、失敗続きでクビに。最悪の人生を送っていたところ、ある日、24時間ニュースだけを流す専門テレビ局が新設され、そこのキャスターに抜擢されます。

   抜擢といっても、局の売れっ子キャスターがゴールデンタイムを担当するのに対し、彼の担当は午前2時から5時。しかし、彼はこの売れっ子キャスターに視聴率対決を挑んでしまいます。どう考えても勝ち目のないこの戦いに、彼が考えだした策が「この国が偉大だということを視聴者に伝えること」でした。

   ニュースとかには関係なく、とにかく「アメリカすげー!」ということだけを語る。この番組は、深夜で脳味噌が溶けているアメリカ人に大ヒットします。そして芸能人のスキャンダルと、今起きている刺激的なカーチェイスと、心温まる動物の映像で埋め尽くされていきます。

自尊心を回復してもらおうと

   このようにテレビがダメになっていく様は、今の日本のテレビそのままです。(アメリカのテレビもそうなんだと思いますが)

   寒さに震えている人に温かいミルクが必要なように、自尊心が欠乏して震えている人には、自尊心を回復させるものが必要です。通常それは、その人個人に対する励ましであり評価であるはずで、テレビが一人ひとりを褒めあげるのは難しい。

   そこで主人公は、その人のアイデンティティーの一部である「国」を褒めあげることで、視聴者に自尊心を回復してもらおうとしたわけです。

   もちろん、一時的に自尊心を回復したとしても、世界はなにも変わりません。ニュースキャスターが「アメリカすげー!」といったところで、視聴者の生活はなにも変わらないからです。

   同様に、「日本すげー」というテレビを見ても、あなたの生活はなにも変わりません。自尊心を回復するためには、遠回りでも、自分がなにか他人の役に立つことをして、そのことで賞賛されなくてはならないのです。(主人公も最後にそれを気付きます)

現実から目を背けずに

   中国をはじめとするアジア諸国の人たちにいろんなものを爆買いされ、自分たちの給料は下がっていき、年金も減り、社会保険料や消費税は上がっていく。そんな下り坂で、自国の有名企業が他国に買収されたり、これまで貧困国だとばかり思っていた国が自国より豊かになったりするのをテレビやニュースで見るのは辛いことかもしれません。

   でも、現実から目を背けてもしょうがない。その現実を踏まえて生きていかなきゃいけないのです。

   幸い、我々には、そうやって追い抜いていく他の国々を利して自分たちが稼ぐ手段もあります。彼らと協力して一緒に多くの人たちが喜ぶ事業を営むこともできます。

   実態のないテレビの慰撫に満足するのではなく、ぜひ、現実の日本とアジアを見て、それを利用して楽しく生きていけたらなと思います。(森山たつを)