J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

そもそも無理のある職場の現実 現場マネはこう乗り切る
【気になる本の散歩道】

『会社の中はジレンマだらけ 現場マネジャー「決断」のトレーニング』(本間浩輔・中原淳 光文社新書 税別740円)

   企業・組織の働く現場でマネジャーが直面する「あちらを立てればこちらが立たず」的なジレンマをめぐって、ヤフーの人事責任者(上級執行役員・コーポレート統括本部長)本間浩輔氏と経営学習論・人的資源開発論の研究者(東京大学総合教育研究センター准教授)中原淳氏が徹底的に討論を重ねる一冊。「部下に仕事を任せるべきか」「時短社員に周りの不満が高まったらどうするか」「『働かないおじさん』に言いたいことを伝えるか」など5つのジレンマと格闘し、各章の締めくくりにそれぞれ自分の「決断!」を提示、世の悩めるマネジャーへのアドバイスとしている。

身の丈に合った解決策を

   成果主義が広く定着した日本の会社職場での諸問題を、アカデミズムの研究知見を動員して快刀乱麻を断つように解決しようと試みるのではない。むしろ、論理的に矛盾のある現場状況を動かせない所与とし、現実的に見据え、身の丈に合った解決策を探そうと腐心する。

   たとえば、時短社員の問題。ワークライフバランスの「ワーク」と「ライフ」の衝突と見立てつつ、こんな感じで足元を確認しながら議論を進める。

「中原 たとえば、産休や育休で一人抜けるとして、その場合、どこかから人を異動させてきて穴を埋めるっていうことは、企業ではあまりないですよね。
本間 補充できれば理想的ですが、現実には難しいと思います。
中原 それって不思議ですよね。労働力が明確に一人減っているのに代わりが補充されないとは、どういうロジックから正当化されるんですか」

   そもそも無理のある、理屈に合わない現実から二人は出発し、実態を踏まえ、時短社員を含むワークライフバランスのジレンマは根底に仕事に対する「評価」の問題があることを明らかにし、さらに評価を機能させるための「マネジャーによる部下の観察」の重要性を導く。「決断!」で本間氏は明快に言い切る。

「組織にも発達課題があり、Bさん(注:時短社員)の存在が問題となっている今は、チームにとってもメンバーにとってもいいチャンスです。適切な評価と丁寧な話し合いを行うことによって、この問題は解決可能ですし、その過程でメンバーの関係の質が向上すれば、チーム力はきっと増すでしょう」

   至ってポジティブである。

これから10年は「人事の時代」

   「ほったらかしていても育つものは育つ」とでもいうような粗放農業=年功序列時代に育った世代には、マネジャーたちがかくも丹精して部下を育てなければならない当世の職場の現状は一驚に値するかもしれない。しかし、それも縮小を始めた日本社会の現実なのである。

   「おわりに」で本間氏は言う。

「この対話を通して、私は、少なくともこれからの十年は『人事の時代』になると確信しました《略》。なぜなら、これからの人事は、社員の多様な働き方や価値観の変化に対応していかないといけないと思うからです」「このように言うと『人事は大変だなあ』と思う方もいるかもしれません。しかし、これらの変化は、社員にとっても会社にとっても望ましい変化です」
2016年4月19日発売
2016年4月19日発売