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性善説と任せっぱなしは全然違う 燃費データ改ざんで思い出すあの名言

   三菱自動車による燃費データ改ざん事件に続き、スズキもデータの測定方法にコンプライアンス違反があったことを公表した。他のメーカーも多かれ少なかれ数値をいじっているのではないかと勘ぐりたくなるのが人情だろう。

   もっとも、車の実際の燃費はカタログに記載された数値から割り引いて考えるのが常識とも言われているようだ。であれば、そんなデータにそもそも意味はあるのだろうか? エコカー減税の意義も根底から揺らいでしまう。

己の無策に憤るべきだ

「やっている、姿を感謝で見守って」
「やっている、姿を感謝で見守って」

   人命や安全に関わるものではないからとか、ある程度の「工夫」は他社でもやっているからとか、そんな甘い考えがこれらの不祥事の底流にあるとすれば大問題だ。自動車業界全体の信用に傷を付けた2社の責任は重い。他のメーカーも改めて襟を正してほしい。

   ところで、燃費データ偽装事件に絡んで、国土交通省の幹部が「性善説でやっていたが裏切られた」と憤っているとの新聞記事を読んで、違和感をおぼえた。むしろ当局は、メーカーに任せきりにしていた自らの無策に憤るべきだろう。

   以前にも書いたが、相手を信じて任せきりにするのは性善説ではない。もちろん、すべての燃費試験データをチェックするのは不可能であり、メーカーとの信頼関係に基づいた検査体制が必要だろう。しかし、メーカー任せで出されたデータを鵜呑みにするというのは、単なる丸投げでしかない。

   では「本当の性善説」による管理を実践するためには、何が必要だろうか。

「任せて任さず」

   大切なのは、信頼とチェックのバランスだろう。つまり「人はそもそも誠実さ(善)を備えている」という信頼感をベースに相手に任せながらも、「人は誰でも自分に甘く、弱い心をもっている」という点も忘れずに、「ちゃんとできているか」というチェックを怠らず、できていなければ軌道修正を促すという勘所を押さえて初めて、性善説による管理は成り立つ。

   松下幸之助の名言に「(権限委譲は)任せて任さず」というのがあり、現在でもパナソニックの管理職研修における重要なキーワードになっていると聞いたことがある。さすが、言い得て妙だ。部下に任せるだけなら誰にでもできる。任せつつも責任をもって見守り、導かなければならないのがマネージャーの辛いところであり、醍醐味でもあるということだろう。

   名言をもう一つ。山本五十六の有名なことばに、

「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」

があるが、これには次のような続きがあるということを、恥ずかしながら最近知った。

「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず」
「やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず」

   「やってみせ......」は新任者に対して基本動作を叩き込むレベルといえるだろう。その上で、部下をさらに育成して才能を開花させるためには、やはり「任せる」「信頼する」という要素が不可欠になってくるということが、この名言からも見て取れる。

   しかし、真の性善説によるマネジメントを実践するためには、ただ「任せて」「信頼する」だけでなく、部下をしっかり見守って、コミュニケーションを大切にし、成果を認めることも怠ってはならない。山本五十六はそのようなことも力説していたのかと、痛く感心した。

   それに続けるのはおこがましいが、かわいい部下を不正に走らせないためには、次のような心掛けも必要だろう。

「言い放ち、任せっぱなしで、鵜呑みにし、正さなければ、人は誤る」

(甘粕潔)