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絡んだ糸は科学だけではほどけない 「ノニストレス」に気づいてこそ

   厚生労働省がこのほど発表した2015年度の「過労死等の労災補償状況」によると、精神障害による労働災害の請求件数は1515件で過去最多になった。心を病んで会社を休む人の数も増加傾向だ。何が問題なのか? 働く人が仕事を通じて幸福になるには、どうすればいいのか?

ハサミを用いない

知らずしらず自己中心的に
知らずしらず自己中心的に

   立派な会社で、上司にも部下にもまったく問題がないと思われるような職場でも、メンタルヘルス不全は起こる。糸が絡まり固定され、適応困難になる。カウンセラーの仕事は、絡んだ糸を一本一本、丹念にほどいていく作業と似ている。カウンセラーはハサミを用いない。

   そして考える。人事制度に問題はないか? 上司のリーダーシップに問題はないか? 個人のセルフケアに問題はないか?

   しかし、答えはなかなか見つからない。

   人々は、こんな疑問への最適解を得ようと情報を求める。折から、人々の知的渇望を満たすようなテレビ番組が放送された。NHKスペシャル「キラーストレス」(第1回6月18日、第2回6月19日)である。とくに第2回は、最新の科学が模索するストレス解消法という内容だったので、わくわくしながら見た。

   番組では、ストレスホルモンについて詳しく紹介していた。脳の情動をつかさどる扁桃体が興奮すると、コルチゾールが分泌され海馬を傷つけるという内容だった。

   しかし、よく考えてみると、確かに最新の知見も織り込まれているものの、ほとんどは以前から知られている内容だ。「コルチゾールの発見」は1936年のセリエ博士によるネズミの実験に端を発する。

   セロトニンやアドレナリンの海馬との関係も、イエール大学のデューク博士らのPTSD研究における実験で何年も前に明らかになっている。

   「コーピング(ストレスにうまく対処すること)」も、最新とはいえない。20年以上前にUCBのラザルス博士によって提唱されたものだ。

「のに」を連発していないか

   筆者は、総合心理教育研究所、カナダストレス研究所を通じ30年以上にわたりストレスサイエンスを調査研究している。

   ストレスに関する理論の源流はカナダストレス研究所にさかのぼる。筆者と同研究所のアール博士とで開発したTHQストレス診断は、日本でストレスチェックが義務化されたのに伴い、多くの企業や官公庁で活用されている。

   個別的なコーピング処方箋では、こちらのほうが最先端だと自負している。いくらストレス科学が進んで「コルチゾール」や「セロトニン」の働きが解明されても、それで直ちにストレスが撲滅されるわけではない。自分の体や脳の中にそれらの物質が出ているかどうか知ろうとしても、分かるはずがない。

   なにより重要な「解」は、己に気づくことある。

   一番いい「気づきの方法」は「ノニストレス」が出ていないか、チェックしてみることだ。ノニストレスとは、

「私はこんなにがんばっているのに......」
「あの時、助けてあげたのに......」

などのように、「のに」という語尾で自分の本意が相手に理解してもらえない不満を表現するストレスをいう。

   こうしたストレスに気づかないでいると、「私は優秀なのに......。なぜ出世しないのだ?」なんていうお先真っ暗な気持ちになる。知らずしらずのうちに自分が自己中心的になっているという事実が把握できていないのである。

   ノニストレスに気づいたらすぐコーピングすると効果的だ。(佐藤隆)