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会社の危ない兆候はここにも出る おろそかにできぬ基本中の基本

   新卒社員が入社して早くも3か月。無我夢中の日々が過ぎて、ようやく自分の居場所が決まり、ホッと一息ついている人も多いのではないだろうか。

   多くの会社では、新卒社員の社会人生活はマナー研修から始まり、その中で、元気な挨拶をすることの大切さを叩き込まれる。しかし、いざ配属先に行って「おはようございます!」と元気よく挨拶すると、先輩や上司からの反応はなく、無言でパソコンに向かっていたという悲しい経験をしたフレッシュマンもいるのではないだろうか。そして、そんな職場で1週間、1か月と過ごすうちに、元気だった新卒社員もどんよりとした雰囲気に染まっていく。

入っただけで分かる指標

   さて、ここで問題を1つ。

風通しは良好か
風通しは良好か
「社員の挨拶は、企業の信用状態を見極めるための重要なポイントになる」

   ○か×か。

   答えは、ある経済誌の特集記事「挨拶定着へ、鉄壁の指南書」の冒頭に書かれている。

「東京商工リサーチの友田信男情報本部長は『危ない会社を見分けるポイントとして、幹部社員の退職などと並んで、従業員の挨拶ができているかを必ずチェックする。挨拶の有無は会社に入っただけで分かる重要な指標だ』と話す。挨拶で社員同士のコミュニケーションがよいか、社内の規律が整っているかまで推測できるという」(「日経トップリーダー」2016年7月号 )

   この一節を読んで、なるほどと思った。東京商工リサーチや帝国データバンクが、社員の挨拶の良し悪しをどのようにスコアリングに組み込んでいるのかは分からないが、挨拶が組織の活力を推し量る重要な定性的要素であるという点には大いに共感をおぼえる。

   筆者自身も、コンプライアンス研修等で企業を訪問する際には、そのような第一印象を重視している。上記の記事を読んで、不祥事の再発防止の打ち合せである企業を訪問したときのことを思い出した。受付に立っても社員の方たちは誰も声を掛けてくれず、こちらから「すみません」と切り出すまで何の反応もなかった。わずか数秒ではあったが、その時の違和感は今でも覚えている。

風通しが徐々に悪化する

   挨拶は、組織における「不正リスクのバロメーター」ともいえるだろう。その理由は、挨拶はコミュニケーションの出発点であり、挨拶ができていない組織では「風通し」が徐々に悪化していくためだ。

   風通しの悪い組織では、上司と部下のコミュニケーションが不十分になり、誤解が生じたり、問題の報告が滞ったりする。また、社員がお互いの仕事に関心を払いにくくなる。そのような環境の下では、以下のような「不正のトライアングル」の3要素が生じやすくなるだろう。

・組織の中で孤立し、プレッシャーや不満を抱え込む社員が増えるリスクが高まる
・お互いの仕事への無関心から、チェックが甘くなり、任せきりの状態が生じやすい
・「会社が悪い」「上司が悪い」などと身勝手な正当化をしてしまう心理状態になりやすい

   逆に、元気な挨拶は、組織の活性化や業績向上をもたらす起爆剤になる。組織コンサルタントのデビッド・シロタ他は、その著書『熱狂する社員』(英治出版)の中で、企業が社員のモチベーションを向上させ活力ある職場をつくるためには、「公平感」「達成感」「連帯感」の3要素が必要であるとしている。コミュニケーションは、これら3つの要素を高めるための潤滑油として機能する。

   「公平感」は、上司がすべての部下と分け隔てなく接して、部下の希望を理解し、自分の考えや評価を率直に伝えることにより生まれる。

   「達成感」は、お互い常に相手に関心を持ち、相手のいい点は小さなことでも褒めたり、認めたり、感謝したりすることにより感じることができる。

   「連帯感」は、まさに日頃のコミュニケーションの賜物である。朝の挨拶を起点として、お互いに声を掛け合う。困っている相手には自然と助けの手を差し伸べる。時には不適切な言葉や振る舞いをきっちり指摘し合うという厳しい連帯感も必要だ。

   挨拶のポイントは、「あ」かるく、「い」つも、「さ」きに、「つ」づける、の4つだと言われる。新卒社員が職場の雰囲気に「染まってしまう」前に、上司や先輩が率先していいお手本を示し続けよう!(甘粕潔)