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印税150万円で文筆業とは笑止 「表現なら何でも」と自らに喝

   これまで4冊の書籍を世に出してきたが、印税について明らかにする機会はほとんどなかった。「おカネのことを聞いたら失礼では」という周りの人の配慮もあるだろうし、「言ったら出版社に失礼では」という私なりの遠慮もある。が、せっかくのマネー考現学。今回は印税の裏話について書いてみようと思う。

  • 筆一本で食っていく、そんな時代もあったが
    筆一本で食っていく、そんな時代もあったが
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印税だけで生活していくのは相当厳しい

   先日、毎日新聞が面白い特集をやっていた(2016年8月29日付「純文学作家の『生きる糧』芥川賞作家も副業は当たり前『専業』はわずか1桁?」)。大きな賞を取った作家でも、印税だけで生活していくのは相当厳しいらしい。

   記事では大手出版社の文芸雑誌編集長のコメントを引用。専業で生活できる純文学作家は、今の時代「村上春樹さんをはじめ1桁」という。「新人作家の初版は3000部。印税1割で1冊100円台なので、得るのは30万円強。1年で2冊出しても年収100万円に届かない。今は学位がなくても大学の教員になれたり、テレビに出たり、昔より副業収入は得やすいので作家を続けられますが、執筆だけで食べるのは無理ですよ」と、生々しい実情を明らかにしている。

   たしかに、小説の初版部数が少ないという話はよく耳にする。一般読者が手に取りやすい新書や自己啓発書、タレント本なら売れるだろうが、小説は「そもそも企画を通すことすら難しい」と、知人の編集者に聞いたこともある。

「表現手段」はそこら中に転がっている

   私がこれまで出した書籍は、いずれも初版が6000~8000部だった。部数だけみれば、純文学よりは恵まれた環境といえるが、ほとんどは初版で終わりである。印税率は10%だから、1冊出すごとにだいたい70万円ほど入ることになる。が、私は筆が遅く、1冊書くのに半年くらいかかるので、年に2冊が(今のところ)限界。このペースだと、印税で得られる収入は年に150万円ほどにしかならない。それでも十分満足しているし、出版させてもらえるだけありがたいと思っているが、年収150万円では「文筆業で食っている」とはいえない。

   先に引用した毎日新聞の記事で、文芸雑誌編集長は「執筆だけで食べるのは無理」「(今の時代はテレビ出演や講師など)昔より副業収入が得やすいので作家を続けられる」と言っていた。言いたいことはわかるが、私はそもそも、作家など「なんらかの表現をしてお金をもらう人」が、本業と副業とを分けるという考え方が、おかしいと思う。小説を出すのは立派な表現手段だが、テレビに出て視聴者に何か印象を残すのも表現だ。大学で教える仕事もそうだろうし、小説家がエッセイを出すのも(副業的といわれることがあるようだが)立派な「表現活動」ではないか。

   今の時代、インターネットもあるわけだし、有料で記事を公開したり、オンラインサロンでファンを集める作家、ライターもいる。「表現手段」はそこら中に転がっているのだ。せっかく、こんなに表現のインフラが多様化しているのに、「これは本業、これはちょっと後ろめたい副業」と、自分の可能性を矮小化するのはもったいないのではないか。私はそう思う。

   「北条かや」としての印税は年に150万円だが、それだけを「本業」とするのではなく、いろんな表現手段を駆使して「食っていく」図太さがないと、この仕事は続けられない。もっと自分の可能性を広く浅く、時に深く追求していかなければと、自分にカツを入れている次第である。

(北条かや)