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「残業ゼロは手段にすぎない」 16時間働く社長の新たな挑戦

   精密小型モーターなどを製造する日本電産の創業者、永守重信会長兼社長は「モーレツ」な働き方で知られる人物。平日は7時前から22時過ぎまで働き、元日の朝以外は休まない、とかつて公言していたほどだ。

   そんな永守氏が今、「2020年に残業ゼロ」を目標に社内で働き方改革を進めている。一体どんな心境の変化があったのか、ラジオ番組で詳細が語られた。

ドイツを見てみよ

創業以来初のテレビCM(2016年末放送開始)の1コマ
創業以来初のテレビCM(2016年末放送開始)の1コマ

   永守氏が出演したのは、NHKラジオ第1「先読み!夕方ニュース」(2017年1月5日放送)だ。

   1973年に従業員3人と起業した日本電産は、国内外の50社以上を買収するなどして急成長を遂げ、現在では連結売上高が1兆2000億円(2015年度)、従業員が10万人を超える超大企業となっている。

   創業時は、大企業の社員の倍の16時間は働かないと倒産してしまうという危機意識から、モーレツな働き方が「唯一の選択肢」だったと振り返る永守氏。会社が大きくなるに従って働く時間を少しずつ縮めてきてはいたという。2010年には、従業員10万人、売上高1兆円を超えたら抜本的に働き方を変えると発表し、その目標を見事達成したため、今度は残業ゼロを目指すようになった。永守氏は、

「残業ゼロは目的ではない。残業を減らすのは手段で、生産性を上げるのが目的」

と繰り返し強調する。

   ドイツを例に挙げ、残業せず夏に1か月ほど休みを取っても、生産性は日本よりはるかに高いとして、「先進国でこんな残業を長くやってるってないですよ。まだまだ改善する余地がたくさんある」と熱を込めた。

   「上司が残っていると帰りづらい」「残業代を生活費として重視している」などの声もいまだにあり、会社も働き手も考え方を変える必要があると主張。自身も稟議書に手書きしていた文書をはんこで済ませるようにするなど、日中の仕事の効率化を図り、19時に帰るようにした。

   幹部や管理者の会議の時間が長すぎ、部下が上司に相談したい時にできないという問題もあったが、出席者の数や無駄な資料を減らすことなどで時間短縮を実現したという。

   様々な取り組みにより、2016年上期は平均残業時間が前年比で半減。さらに減らしていくために、業務効率化へのシステム導入、設備の新調、在宅勤務を取り入れるなど、投資を惜しまない考えだ。

残業減っても収入は減らさない

   残業が減っても、その分社員の収入が減る事態は「あってはいけない」と考える永守氏。現時点で残業時間は半減しているが、会社の業績は落ちていない。残業代として支払われていた分の半分はボーナスとして支給し、残りは社員教育への投資にあてたそうだ。

   「残業ゼロを目指すことで自宅に持ち帰る無給の仕事が増えているのでは」というリスナーの疑問に対しては、

「それはない。サービス残業や無給の仕事をしていたら意味がない」

と否定。残業しなければ仕事がどうしても終わらないという人は残業をすればいいと柔軟な考えを示した。

   長時間労働を当然視していた永守氏が抜本的な働き方改革を語るという180度の転換は、多くの人から驚きをもって受け止められたようだ。ツイッターでは、ラジオでの発言内容を知った人から、

「今の日本の常識になって欲しい姿勢だ」
 「残業を無くした上で『残業代に使っていた金額の半分はボーナスに加算』っていうのはいいね。残業ないけど金もない、じゃ本末転倒」
 「永守さんの会社では働きたくないけど、社員の生活を考えているのが他の経営者と違うよな。残業時間削減=コスト削減しか考えない経営者とは違うよな」

など、高い評価が寄せられている。(MM)