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社長熟考、「死ぬまで」と結論 後継問題にコンサル好アシスト

   同業のS氏と会食をしました。ビジネス上における最近の課題などを話すうちに、お互いの最大の共通テーマと思しき事業承継の難しさという話題で盛り上がりました。

   S氏は数年前にあったというこんな話をしてくれました。

  • 優先順位を下げないよう考え続ける
    優先順位を下げないよう考え続ける
  • 優先順位を下げないよう考え続ける

重要性高いが緊急性低い問題

「中堅企業R社のオーナートップからコンサルティング依頼を受け、2つのミッションを言い渡されました。ひとつは『業績進展に資すること』、今ひとつは『後継者問題を決着させること』。業績進展はある程度方法論が見えていたので、さほどプレッシャーはなかったものの、後継問題はハッキリ言って難題だと思いました。御子息はすでに20年近く大企業に勤務し、他にはお身内に後継候補がおらず、全くの白紙状態だったのですから」

   S氏がやってみたのは、とにかく社長に後継問題の話題を投げかけ、その考えを尋ね続け最良の方法を見出そうとすることだったといいます。

「気がついたことがありました。後継問題のような重要性は高くても緊急性が低い問題は、重要性・緊急性共に高い業績進展のような課題には常に劣後します。これは仕方ない。ところが意識の中で後継問題が薄らいでしまうと、重要性が低く緊急性だけが高い問題よりも劣後に置くという誤った判断に陥りかねません。だからこの問題について質問し続けることで、社長の意識の中での優先順位を下げないように努めようと思いました」

優先順位を下げたい意識も

   S氏が言うところの「優先順位」の考え方は、図のようなマトリクスで説明されるマネジメントのセオリーでもあります。縦軸に「重要性」を、横軸に「緊急性」を置き、それぞれの高い低いで4象限のマトリクスができます。この場合の優先順位は、重要性・緊急性共に高いAが最優先、次いで重要性が高く緊急性が低いB、そして重要性が低く緊急性が高いC、さらに重要性・緊急性ともに低いD、の順になるというものです。

   Aが最上位でDが最下位という優先順位を間違えることはまずありませんが、BとCの優先順位付けは意外に間違えることが多かったりします。特に様々な課題に日々追いかけられている経営者ともなると、ついつい目の前にある緊急を要する課題を優先しがちで、Cを優先してBを後回しにすることが間々あるのです。

   その後回しの最たるものが後継問題だと捉え、社長の中でその問題についての意識が下がらないように動いたというS氏の対応は、なかなか鋭いと感心させられるところです。

   社長とのキャッチボールを続けるうちに、「さらにひとつ分かったことがある」とS氏が続けました。

「ある日社長がこう言いました。『オーナーであろうがなかろうが、元気な時に後継者づくりの話を好んでする経営者はまずいないと思う。言ってみれば自分亡き後の家族写真をどう撮るか、相談するようなものだから』と。つまり、意識が薄れるから後継問題の優先順位が下がるということ以上に、経営者には優先順位を下げたいという意識がかなり強く働くということなのです」

   それでもS氏は優先順位を守らせるべく、根気強く後継問題の話を尋ね続けたそうです。それが2年ほど続いたある日、社長が目を輝かせて「この問題に結論が出せた」と高らかに宣言したのだそうです。

問題は経営者のマインドにある

   「おもしろくもない後継問題の優先順位を守りつつ常に意識して一生懸命考え続けたおかげで、ようやく結論が見えた。真剣に考え抜いた結論として、私は死ぬまで社長をやる。社員にも家族にもそれを宣言し、それを行動で示すつもりだ。恐らくそれが当社にとって後継を育てる一番いい方法ではないだろうかと思う。Sさん、ありがとう!」

   えっ? それではミッションは白紙のまま?

   「それでよかったのですか」と私が尋ねると、S氏は、

「事情を知らない人は、『後継者も育てずにいつまで社長をやる気なんだ』とあきれるかもしれません。でも問題の優先順位を落とさずに考え抜いた末の結論だからこそ、私は社長の決定を全面的に支持しました。会社によって後継問題の決着の仕方は違って当たり前。大切なことは優先順位を守り、問題から逃げずに真剣に向き合ったかどうかです」

と、彼なりの受け止め方を説明してくれました。

   すなわち、後継問題とは、後継に実権を譲れないという現象が問題なのではなく、その問題を真剣に考えない、考えたくないという経営者のマインドが問題であり、真剣に考えさえすればその会社にとって最良の結論が必ず出るのだと。私のような、何はともあれ極力早期に後継者をつくるべきだと性急に考えがちな者には、目からウロコのお話でありました。

   R社社長はその後も元気に経営トップを続けられ、御子息が会社に入ることを検討されているという近況を聞いているそうです。(大関暁夫)