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山本五十六の言葉が身にしみる カンボジアの「スパボー」売り体験

   太平洋戦争時の海軍大将、山本五十六の名言にこのようなものがあります。

   「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」

   「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず」

   「やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず」

   私は今、カンボジアで日本の大学生に対して「海外で商売をする」という体験を通じて、働き方を身につけてもらう教育プログラム「サムライカレープロジェクト」を運営しています。

  • カンボジア人は「スパボ―」がお好き?
    カンボジア人は「スパボ―」がお好き?
  • カンボジア人は「スパボ―」がお好き?

「ヤバイ。売れないっす」

   若者たちに、異国の地で学びを与えていると、この教育プログラムの内容が身にしみて分かります。

   このプログラムの1週目は、カンボジア・プノンペン市内でモノを売るためのマーケティングリサーチ → 試食会 → 実売 という流れからスタートします。

   市内をマーケティングした結果を踏まえて、「この街で売れそうなモノ」を提案してもらうのですが、時に「これは売れないだろ......」と思うようなモノが提案される場合もあります。

   今月の問題児は「スパボー」。

   おっさんである私は知らない食べ物なのですが、日本の若者には人気らしく、スパゲティーを油で揚げて、塩気を付けた食べ物です。

   カンボジア人は一般的に、新しいモノになかなか手を出してくれないため、カンボジアでみたことがないようなスタイルの食べ物は、一般的にあまりウケません。

   とはいえ、ここでやめてしまっては教育になりません。

「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず」

   この「スパボー」ですが、試食会ではそこそこウケたようです。

   まあ、マズイものではないですし、カンボジアの人たちは基本いい人なので、なにか食べてもらうと大体おいしいと言ってくれます。

   と、いうわけで、本番であるカンボジアのサッカーの試合会場での販売の準備も、彼らにすべて任せることにします。

   が、販売当日、食材の発注伝票をみてビビりました。

   スパゲティー、13袋も買ってるよ!

   さすがにそれは買いすぎだろっ。一体どれだけ売るつもりなんだ...... と思ったのですが、ここもグッとこらえて任せます。彼らは楽しそうにカンボジア人スタッフと協力してスパボを揚げています。

   そして、当日。

「ヤバイ。売れないっす」

   そうなんです。見た目が地味なんです。わたあめと比べて。

   あと、かき氷と同じ値段っていうのは、ちょっと割高なんです。

   さらに、カンボジアの人は試合を観ながらビールとか飲まないので、あまりつまみ需要もないんです。

   さすがに研修生は、ちょっとしょげています。

カンボジア人が好きなもの、誰にもわからない

   売れないワケが予見されるポイントをいくつか説明します。

(1)試食会での顧客の反応を、アンケート用紙ではなく食べている時の顔で見たか?
(2)自分が顧客だとしてこの価格設定で買おうと思うか?
(3)暗い会場で「スパボー」がどう見えるか?

などです。

   同時に、きちんとスタッフと一緒に作ったこと、途中で諦めずに売る姿勢を最後まで貫いたことなどは、きちんと評価します。

「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」

   こうやって、実際に動いてみることで、足りなかったものは何かを自主的に考えるようになるのです。

   今の日本の教育は、失敗しないためにはどうすればいいのかを必死で教えています。しかし、本当の学びは失敗の中にあります。講師がうまく行かないことが見えていたとしても、失敗の後始末をする覚悟をもって、見守ってあげることで、若者が自分で気付いて、修正する方法を学ぶのです。

   その後、さまざまな紆余曲折を経て2週間後、また市内で今度はカレーパンを売ることになりました。

   そこで、この前も来てくれたカンボジア人のお客さんが一言

「今日は、スパボー売ってないの?」

   ヤバイ。スパボー、ウケてた。

   カンボジア人が何が好きかなんて、誰にもわからない。だからいろんなモノにチャレンジすべきだと言い続け、実際に時に大赤字を出しながら売り続けると、こういうことが起こるのです。

「やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず」

   このスパボーの売り上げを伸ばすため、どのように工夫するかが次の課題。彼らの試行錯誤を見守る日々が続きます。(森山たつを)