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お願い!買ってぇ!!「たまごっち」 20年の時を経てよみがえる渇望感

   今から20年前に、大ブームとなった「たまごっち」を覚えているだろうか――。バンダイが開発した卵型のキャラクター育成ゲームで、異常なほどのブームだった。

   たまごっちを手に入れるために徹夜で店に並んだり、1個2000円ほどのものが数万円(!)で取引されたりして、社会問題に。1996年11月の発売から、20年で累計8100万個が売れたという。そこまで皆が欲しがったオモチャを、小学生だった私が欲しがらなかったわけがない。「買って、買って、買ってくれぇ!!」と叫び続けたあの1年を、私は一生忘れないと思う。

  • 「たまごっち」ほしかったなぁ…… (画像は、「たまごっち」の公式ホームページ)
    「たまごっち」ほしかったなぁ…… (画像は、「たまごっち」の公式ホームページ)
  • 「たまごっち」ほしかったなぁ…… (画像は、「たまごっち」の公式ホームページ)

「流行している」は買う理由にはならない

   私が通っていたのは田舎の小学校だったが、毎日のように「たまごっちがどうした、こうした」と話題にのぼるほどのブームだった。希少性があるオモチャだったが、田舎だったためか、それなりに需給が一致したようで、結構な数の児童が持っていた。なかにはカバンに、2つ、3つとぶら下げている猛者もおり、私は羨ましかった。

   いつもは厳しい両親も、これだけ流行っていれば「仕方ないなぁ」とお金を出してくれるだろう。さりげなく、親に「こういう物が流行っているので、ぜひ手に入れたい」と申し出てみたが、いつも通り「ダメ!」の一点張りだった。

   なぜだ。どうしてうちはこんなに厳しいのだ。「みんな」が持っているたまごっちを、うちだけ買ってくれない理由はなんなのだ。連日にわたって理由を問いただし、説得を試みるも、両親は冷たい口調でこう告げた。

「流行しているからといって買う理由にはならないし、実際に『みんな』というほど全員が持っているわけではない。仮に『みんな』が持っていたとしても、かやがそれを持たなければならない理由にはならない」

   ぐうの音も出ないとはこのことか。

   放課後、通っていたそろばん塾で友人たちが「どこまで育った」とか、「私のは『おやじっち』になった」などと楽しそうに話すのをみて、私は一人さみしく、水筒の麦茶をすすったものである。悲しくて、やるせなくて、こっそり泣いた。たまごっちを持たない女子は、友人グループの会話にすら入れないのだ。あんまりではないか。

   こうした苦境を数か月にわたって両親に訴え続けたところ、冬休みになって、ついに「お年玉で買うならよい」との許可が下りた。やった! これで私も「たまごっちを持つ友人グループ」に入れる!

「ぎゃおっぴ」の誘惑

   5000円のお年玉を握りしめて訪れたジャスコには、すでに「たまごっち」は売っていなかった。私が両親に「買ってくれ」と訴え続けている間に、ブームは終わりかけていたのである。その代わり、オモチャ売り場には「たまごっち」の類似品がたくさん並んでいた。確か「ぎゃおっぴ」という名前で、たまごっちよりひと回り大きいがほとんど同じだ。 あれだけ欲しかった「たまごっち」と瓜二つの商品。「これを買おうか」と思ったが、すんでのところで踏みとどまった。周囲から「アイツは、たまごっちが買えないから『ぎゃおっぴ』で妥協した」と思われるのは悔しい。本当は類似品でもいいから、たまごっちのようなもので遊んでみたかったが、ギリギリのプライドに支えられていたのだろう。

   冬休みが明けて登校してみると、女子たちの間で「隣のクラスの○○君が、『ぎゃおっぴ』を持っていた」という話題で持ちきりであった。「ぎゃおっぴって、ニセモノ?」と笑う友人を見て、「ああ、一時の迷いで類似品を買わなくてよかった」と安堵したのはいうまでもない。

   あれから丸20年経ったが、私は今でも「偽ブランド品」だけは買わないと決めている。

   もしあの時「ぎゃおっぴ」を買っていたら、私は「CHANEL」欲しさに「CHANNEL」を買う女になっていたかもしれない。たまごっちブームに感謝しているのはそれくらいだ。

   せいぜい2000円のオモチャが死ぬほど欲しかった幼少期の私には、「どうせすぐにブームが終わるんだから、ガマンしろ」と叱ってやりたい気もするが、同じことを言っていた両親には、「2000円の『たまごっち』くらい、買ってやってもよかったのではないか」と思ったりする。(北条かや)