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その38 敬老入浴事業 「こんなものいらない!?」(岩城元)

   東京・池袋にある豊島区役所で「敬老入浴のご案内」というチラシを見つけた。「高齢者の方の健康増進に活用していただくため、区内の銭湯に100円で入浴できる敬老入浴事業を実施しています」とある。

  • 東京都内の銭湯。その数はだんだんと減りつつある。
    東京都内の銭湯。その数はだんだんと減りつつある。
  • 東京都内の銭湯。その数はだんだんと減りつつある。

豊島区は65歳以上が100円、でも1年に30回まで

   豊島区内在住65歳以上の人は区役所発行の「としま・おたっしゃカード」を持って銭湯に行けば、本来なら460円の入浴料金が100円になる。ただし、1年間に利用できるのは30回までだ。

   お隣の板橋区役所をのぞくと、ここにも同じようなチラシがあった。「区内在住の70歳以上の方の健康増進とふれあい交流を図る」のが目的である。入浴料金100円は豊島区と同じだが、年間に利用できる回数は25回で、豊島区より少ない。対象年齢は豊島区より5歳上である。

   そんな細かいことは別として、どちらも年寄りにとって悪くはない話である。だけど、月に2回か3回、銭湯に通ったからと言って、どれくらい「健康増進」に役立つのだろうか? 銭湯に行けば、他人にも出くわす。でも、この程度の銭湯通いで、「ふれあい交流」がどれほど進むのだろうか?

   事業の名前や中身は少しずつ違うが、東京の他の区でも同じようなことをやっている。「高齢者福祉」という目的はどこも同じで、大阪市でも毎月1日と15日、70歳以上の入浴料金を通常の440円から270円に割り引いている。

敬老入浴事業は税金、でも費用対効果は?

   敬老入浴事業のために、どの自治体もそれなりの税金を使っているはずだ。だけど、「費用対効果」という点から見ると、そんなに胸を張れる事業なのだろうか。

   でも、月に2~3回ではなくて毎日、高齢者を割引料金で入浴させてくれるのなら、文句も言えないな。そう思っていたら、そんなところもあった。

   たとえば、東京都中央区だ。65歳以上の区民は年中いつでも100円で銭湯を利用できる。これなら、「健康増進」「ふれあい交流」と言われても仕方がない。そう思いかけたが、中央区には肝心の銭湯が今9つしかない。そのせいだろう、お隣の千代田区、台東区の計5つの銭湯も「協力浴場」ということになっている。

   僕が子供のころ、銭湯に行くときは、たらいにタオルとせっけんを入れ、下駄履きでカラコロ、といった感じだった。

   だけど今、まさに東京都の中心である中央区あたりで「敬老入浴事業」のお世話になろうと思っても、住んでいる場所によっては、そう簡単にはいかない。ある程度、服装を整え、地下鉄かバスでということにもなりかねない。勢い、入浴料金100円が年中OKでも、銭湯には足が遠のくのではないか。

   表立って反対はしにくい「敬老入浴事業」だけど、実際に「高齢者福祉」にどれだけ役立っているのか。よく考えてみると、はなはだ心もとないのである。(岩城元)