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セクハラ、パワハラの「境界線」 若手社員が多い会社の社長が思うこと(大関暁夫)

   財務事務次官の女性記者に対するセクハラ問題が話題になっています。世間のこの問題に対する反応は、事態が事実であるなら当然のことながら、批判的な意見が大半ではあるのですが、経営者の中には少し変わった捉え方をされている方もいるようです。

   十数店舗の携帯電話の販売店を運営するT社のM社長が、セクハラに関してお悩みを漏らしていました。

  • セクハラ、パワハラの「境界線」は?
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えっ! 上司が部下の女性の肩を......

「地位的に上位にあるものが、セクハラ行為をするというのはあってはならいことではあるのだけれど、うちのように上司も部下も若い組織では違うリスクもあるので、こういうニュースを聞くと一概に被害者の声ばかりを鵜呑みにはできない気もしています」

   M社長が言う「違うリスク」とは、部下の女性が嫌いな上司が自分の少し肩や腕に触れたとかを「セクハラ行為」として本社に報告して、上司を異動させようとしているのじゃないのか思われるケースがあるのだとか。

   もちろん、たいてい上司側の言い分は、「激励の意味で肩や腕を叩いたまで」とセクハラ行為は完全否定。しかしながら場合によっては、被害を訴える女子社員は同僚とも口裏合わせをしているケースもって、こればかりはどちらの言い分を信じるべきなのか悩ましいと。

   今回の事務次官の件はもし報道されている内容が事実なら言い訳の余地はないようなものですが、セクハラ問題の微妙なところは行為者本人にそのつもりはなくとも、相手が不快に思ったり、あるいはそれを見ていた周囲の人間が不快に感じたりしたのならば、それはセクハラになる、という事実認定の難しさにあります。

   だから、その部分を逆手にとって、ふだんの腹いせに「セクハラだ!」と騒ぎ立てることも、やろうと思えば可能ではあるわけなのです。

いかなる場合でも「ボディタッチはNG」です!

「とにかく、いかなる場合でも『ボディタッチはNG』は徹底しています。しかし、件の事務次官氏が『彼氏はいるの?』とかプライベートな話を聞いたことも問題視されていますが、上司サイドからスタッフのプライベートを聞くのはダメ、を徹底するのは難しい。なにしろ上司も30代が中心で独身者も半数以上いるわけで、休憩時間などにごく普通に『昨日の休みはどこに出かけたの?』と聞くような会話はありうるわけで、これを『プライベートを尋ねられて不快だった』と言われても、本当に困るのです」

   セクハラ以上に難しいのがパワハラ問題だそうで。これはもう組織運営にも支障が出はじめているだとか。

「パワハラ関連は、もっと始末に負えません。今の若者は叱られ慣れていないということと、うちの場合は叱る側も若いので叱り慣れていない。パワハラ自体の存在有無の実態把握がまったくできないのです。言われたほうは、少しきつい口調で指導をされると、『パワハラを受けて、会社に行きたくなくなりました』と。極端なケースになると、会社に相談することなくネット上に『どこどこの携帯電話販売店の店長からパワハラを受けています』などと、会社や店までが特定できるように書き込んで、ブラック企業呼ばわりするようなケースも過去にはありました」

   M社長はこのようなパワハラ騒ぎの弊害として、2つのことをあげています。

   ひとつは、パワハラの意識なく普通に指導したと主張している上司が、「普通に指導してもパワハラ呼ばわりされるのなら、どう指導していいのか分からない」とパワハラ疑惑怖さから指導放棄気味になること。もう一つは、退職した人間も含めた会社関係者からの口コミやネット上の書き込みによって「パワハラ職場=ブラック疑惑」がジワジワ広がり、採用難状態が輪をかけてひどくなっていること。

   どちらも、経営にとっては深刻な問題です。

基準がないからアタマが痛い

「どこからがセクハラか、パワハラか? 基準のないことは本当に難しい。特に管理者も部下も若者が多いうちのような企業は、どこもアタマの痛い問題だと思います。事務次官のようなお偉い方々のセクハラ問題とはまた違うのですが、この手の問題は、実態も把握しづらいので本当に厄介です。そんな事情でいろいろ刺激をしてほしくないこともあるので、セクハラ、パワハラ関連の問題で派手な報道は控えてほしいというのが正直なところです」

   組織は人が集まって形成されるものであり、コミュニケーションの活性化こそが円滑な組織運営に資するのは疑う余地のないところです。

   しかし、コミュケーションを活性化すれば、今度はセクハラやパワハラと受け取られかなねない事象が増えるリスクを負うことにもなります。性別、出身、経歴等々さまざまな人が集ってこそ大きな力を発揮する組織運営を、期待通りに動かすことの難しさを改めて痛感するばかりです。

(大関暁夫)