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【新連載】志摩力男のFX運命の分かれ道 イタリアは「対岸の火事」ではない!

   2018年は、年初にはいくら考えても予想できなかった、さまざまな「想定外」が起こっています。

   低ボラティリティ環境を利用してVIX(恐怖)指数をショートにするトレード(VIXインバース)などが爆発。それが株価急落を招いたり、アルゼンチンペソやトルコリラが暴落したりしましたが、今度はイタリアで大変なことが起こりました。

  • 日本だって、どうなるか……
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ドラギECB総裁が生んだ? ポピュリストの台頭

   先の選挙で勝利した、ポピュリスト政党「五つ星」と反移民「同盟」が組閣する際、マッタレッラ大統領はユーロ(欧州連合=EU)懐疑派の財務相人事を認めませんでした。

   そのため、事実上のユーロ離脱を問う総選挙が行われるかもしれないとの観測が高まると、イタリア国債は突然暴落を始め、2%前後で取引されていたイタリア10年債は3.2%へ、ついこの前までマイナス金利だった2年債も、2.6%へと急上昇したのでした。

   このイタリア2年債の動きの激しさは猛烈でした。テクニカルが好きな人は、ボリンジャーバンド(将来の相場の値幅や反転を判断する指標。上下の幅は移動平均線を基準とした標準偏差で表す)をよく見られると思いますが、大概は2シグマ(標準偏差)、あるいは3シグマぐらいのところまでくると逆張りも可とされていますが、今回起こったことはなんと22シグマ。ほとんどあり得ないことが起こったわけです。

   どうしてここまで激しい動きとなったのか。そこは少しわかりません。公式には否定されていますが、イタリアの「五つ星」や「同盟」は欧州中央銀行(ECB)が購入したイタリア債の2500億ユーロを減免するよう要求しました。

   それが本当であれば、ECBは今後イタリア国債を買えなくなります。債務を返済する気のない国の債券は買えません。

   このECBが各国の債券を買う仕組みは、ドラギ総裁が「ユーロを守るためには何でもする」と言って導入した、それまでタブーとされていた政策です。それだけ、ドラギ総裁のユーロを守ろうとする決意は並々ならぬものがありました。

   しかし、今回のようなポピュリストの台頭は、ある意味ドラギ総裁自身が作り出したものとも言えます。政策が裏目に出ました。

日本でも起こり得る、大規模な量的緩和政策の副作用

   なぜなら、ポピュリスト政権側が主張する政策は、すべて財政支出を大きく拡大するものばかりです。財政を拡大すると、当然債券の価格は下落します。債務返済の意思がないとみなされれば、債券価格は大きな下落に見舞われる可能性もあるのです。

   しかし、ECBの量的緩和政策があれば、すべては抑え込まれます。だからこそ、ポピュリストは台頭できるのです。

   ポピュリスト政権側にもっと責任ある政策を推し進めるように自覚してもらわないといけません。もしかしたら、5月29日のイタリア債の急落はポピュリスト政権側に自覚を持ってもらうための意図的演出だったのかもしれません。

   また、それは国民の側にも自覚してもらいたいというメッセージだったかもしれません。ユーロにとどまりながら、財政を大幅に拡大することは両立しません。どちらかを選びたいなら、どちらかを捨てなければなりません。イタリア国民のユーロ支持は7割ですが、同時に「五つ星」「同盟」を6割の方が支持していますが、矛盾があります。

   同じことが日本にも起こる可能性があります。イタリアで起こったことは、大規模な量的緩和政策の副作用です。量的緩和政策で市場を無理矢理に押さえつけていたからこそ、やめるときに大きな市場変動をもたらしたのです。また、限界に近い政策で危機を押さえつけているために、危機を危機として自覚してない人たちがたくさんいます。

   日本は世界で最も悪化した政府債務を持ちます。普通の国であれば、国債価格は暴落しているでしょう。そうならないのは、「黒田日銀」がデフレ克服の名のもとに、大量の国債を購入しているからです。

   それなのに財政を拡大しなければならないだの、消費税引き上げは延期すべきなど、いろいろな声があります。驚くのは、消費税引き上げは将来世代のためでもあるのに、自民党の若手グループが消費税引き上げ反対というのは解せません。

   日銀が長期国債の金利をゼロ%近辺で抑え込む政策をとっているからこそ、何も起こりませんが、その歪みが何かの拍子に表に出てきたらどうなるのでしょうか――。そうさせないために、少しずつ日銀は軌道修正していますが、コントロールに失敗したとき、イタリアで起こったことと同様、もしくはもっと悪いことが日本に起こる可能性はあり、我々はそれに対して備えなければならないと思います。(志摩力男)